藪の中(芥川龍之介)のあらすじ
藪の中は1922年に発表された芥川龍之介の短編小説です。 事件の真相が分からないことを「藪の中」と表現しますが、この話が由来になっています。
藪の中で殺人事件が起きるも、事件関係者の証言がどうにも食い違います。 果たして事件の真相は何なのでしょうか。
藪の中の事件
藪の中から男の死体が見つかり検非違使が捜査を行いました。 関係者に聞き取りを行いましたが、証言が食い違い真相がはっきりしません。
新婚の夫婦が一緒に歩いているところを、妻に一目ぼれした多襄丸が乱暴しようと企てたのが事件の始まりです。 多襄丸が男に儲け話があると騙して藪の中に呼び寄せたまでは確かですが、藪の中で一体何が起こったのでしょうか。
多襄丸の供述
容疑者の多襄丸の供述です。
まず男を竹藪へと呼び出し、不意を突いて気絶させ縄で縛りました。 そして男の前で女に乱暴すると、女は「二人の男に恥を見せるのは死ぬよりつらい、戦って生き残った方と添い遂げたい」と言いました。
女を妻にしたいと考えた多襄丸は、女の望み通りに男の縄を解いて刀を渡し、堂々と戦って男を刺し殺しました。 しかしその戦いの間に女は逃げてしまったそうです。
妻の供述
殺された男の妻の供述です。
多襄丸に乱暴された時、女は夫に侮蔑の目で見られたことに気付きました。 そのショックで失神し、気づくと多襄丸はいなくなっていたそうです。
縛られたまま残されていた夫に「こうなっては生きていけない、共に死にましょう」と言い、夫の心臓を刺したところで再び気絶してしまいます。 そして再び目覚めた時には、夫は既にこと切れていました。
自分も後を追おうとましたが死にきれず、ふらふらと歩いているうちに清水寺へとたどり着いたそうです。
巫女の証言
死んだ男の霊を憑依させた巫女の証言です。
男が縛られると多襄丸は女に「俺の妻になれ」と誘惑し、あろうことか女はそれに乗って男を殺すよう懇願しました。 それを聞いた多襄丸は心変わりしたのか、何もせずに男を解放して立ち去りました。
その隙に妻は逃げ、一人残された男は情けなさから自分の胸を妻の小刀で刺して自害しました。 そうして意識が朦朧として死ぬ間際、何者かが胸から小刀を抜いたそうです。
感想
この物語は誰が本当の事を言っているのか、あるいは全員が嘘を付いているのか、一体何が真実だったのかは明言されません。 巫女の語りの終わりと共に物語は終わります。
もちろん作者もこの話の真相について何ら明言してはいません。 事件の真相はタイトル通り「藪の中」ですが、なんだかモヤモヤしてしまいますね。
モヤモヤを抱えた読者によってこの話の真相を求める動きもありました。 作中人物の証言の徹底的な洗い出しがされたり、仮説からパターンを分けて犯人を導き出したり、自分で勝手に真相を書いてしまう人もいました。
しかし少なくとも作中の描写から論理的に真相を導くことはできません。 それが読者の想像をかき立て、物語を魅力的に見せるから不思議なものです。