こころ(夏目漱石)のあらすじ

Kokoro

こころは1914年に発表された夏目漱石の長編小説です。 主人公の「私」が先生と呼ぶ謎の多い人物の心の機微を描いた物語で、人の持つエゴと倫理観の葛藤がテーマです。

こころが文章で繊細に表現されており、その技術にはただただ舌を巻くばかりです。

先生と私

私はその人を先生と呼んでいました。その人の記憶を思い起こす度に先生と言いたくなります。 私が先生と出会ったのは学生の時分に鎌倉へ行った時です。

どこかで会った気がしたのですが思い出せず、気になった私は毎日先生を待ち受けたり付けまわしたりして、やがて向こうから話しかれられました。 どこかで会ったことがあるか聞いてみましたが、どうやらあちらにも覚えはないようです。

これから先にも先生の家を訪ねて良いという許可を貰って私は東京へと帰りました。 それからひと月後に行ったときは先生は留守で、二度目に行った時に奥さんから先生は墓地にいることを聞きました。

墓地で会った先生は歯切れが悪く、何か知られたくないことがあるようでした。 何か聞いても深くは語らず、友人の墓参りをしていたことだけを教わりました。 それからも度々先生の家を訪ねましたが、墓参りの事を聞くとその顔は酷く曇ります。

先生は自分のことを価値のない人間だと思っているようでした。 奥さんは「昔はもっと明るい人だったが、親友の変死を切っ掛けに世間も人も嫌いになってしまったのだ」と話してくれました。

父の病気

冬になると父が病気で容体が危ないと知らされ故郷に帰りました。 病状を聞くと暫くは持つようでしたが、しかし根本的に治りはしない病気のようです。 すぐどうこうなる訳ではないので、とりあえずは今まで通りの生活に戻りました。

春になって先生に父の容態を話すと、先生に「もし財産があるのなら相続の事は父が存命のうちにきっちりしておいた方が良い、人間は普段は良い人でも何かあると急に悪人になる」と忠告されました。

先生はかつて人に騙されたそうですが詳しい話は教えて貰えませんでした。 私が食い下がると「いずれ私の過去を全て君に教える、しかし今は時期ではないから話せない」とだけ言います。

そうするうちに私は学校を卒業して帰省しました。 父はまだ存命であり、私の卒業証書を感慨深く見ています。

やがて両親は私に就職を勧め「お前のよく話す先生に頼んでみれば良いじゃないか」と言います。 私はあの先生は何もしていないし就職口を世話してくれるはずもないと思いましたが、両親に押されて手紙を出すことになります。

しかしやはり先生からの返事はなく、就職口を探すため東京に戻ろうとしました。 しかし父親の容体が崩れたので、それは先送りになります。

いよいよ危ないと家族が集まってきたとき、先生から手紙がきました。 手紙には「これを読む時もう私はこの世にいないでしょう」と書いており、私は先生の安否が気になって居ても立っても居られなくなりました。

父はまだ数日は持つだろうと見て汽車に乗り込み、改めて先生の手紙を読み始めます。

先生からの手紙

叔父の裏切り

私は早くに両親を亡くしましたが、親が財産を残してくれたので不自由なく生活できました。 叔父に面倒を見て貰って学生をしていたのですが、ある時叔父が親の遺産を盗み取ってたことを知りました。

信頼していた叔父に裏切られことにショックを受け、故郷を捨て東京で一人で生きることにしました。

東京での出来事

東京で下宿先を探し、未亡人とお嬢さんの家に住まわせてもらうことになりました。 私はそこで暮らすうちに段々とお嬢さんに惹かれていきましたが、そんな暮らしはここに入って来たKによって変わります。

Kは私の幼馴染で、医者の跡目として養子に取られ東京の大学に通っていました。 しかしKは医者になる気はなく、それを養父に知られると養子縁組を解消され、Kの生活は行き詰まりました。

私は下宿先にKを住まわせてくれるよう頼み込み、一緒に暮らすことになりました。 やがてKもお嬢さんと打ち解けていきましたが、私は二人が仲良くすることに嫉妬を覚えるようになりました。

やがてKは私にお嬢さんが好きになった事を打ち明けますが、私はそんなKを批判して牽制します。 そしてKの並々ならぬお嬢さんへの感情を察した私は、先手を打って母親にお嬢さんを嫁に欲しいと話したのです。

Kの自殺

私とお嬢さんは結婚することになり、Kはそれを知ってから2日後に部屋で自殺していました。 Kは遺書を遺していましたが、私が恐れたようなことは書かれていませんでした。

遺書には意志薄弱で先の望みがないから自殺する事、今まで世話になった礼、迷惑をかける詫び、そして死後の後片付けの依頼のみが書かれていました。 私はかつて私を裏切った叔父と同じように、Kの信頼を裏切ったのです。

Kの遺骨は生前Kが気に入っていた雑司ヶ谷に埋めました。 ある日妻と一緒に墓参りに行ったとき、妻はKに2人の結婚を報告していましたが、私は墓前でただ謝るのみです。 それ以来、妻と一緒に墓参りはしないことに決めました。

こころ

叔父を悪く言っていた時の私は自分を立派な人間だと思っていましたが、Kを殺した事実はその自負を粉々にしました。 私は自分に愛想を尽かして動けなくなってしまったのです。

私の心の中にはKを殺した後悔と罪の意識が残り続けています。 そしてようやく私は自殺をする決心をしました。

私は私の過去を善悪ともに他の参考に供するつもりです。 しかしどうか妻だけ何も知らせないで、腹の中にしまっておいてください。

感想

Kはなぜ死ななければならなかったのか、先生はなぜ死のうとしているのか。 裏切りが原因だったのか、それとも孤独に押しつぶされた結果だったのか。

二人とも心が純粋すぎたのが原因のように思えます。 もう少し叔父のように泥臭く生きることができれば、二人とも死ぬ必要もなく、やがては笑い話になったのかもしれません。

しかし残念ながらそうはならず、悲しい結末の予感と共にこの物語は終わります。

この話は色々な人が感想を書いていますが、中でも面白いと思ったのは「先生はバカじゃないのか」というものです。 言われてみると確かにその通りなんですよね。先生のように思い悩んで動けなくなるよりは、鼻で笑う方が健全なのかもしれません。

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