地獄変(芥川龍之介)のあらすじ

屏風が燃える光景

地獄変は1918年に発表された芥川龍之介の連載小説です。 地獄変とは地獄で苦しめられる亡者の様子のことですが、物語は現世の出来事です。

絵師の良秀は、地獄で苦しめられる亡者の様子である「地獄変」の屏風を描くように命じられました。 地獄の光景を想像したり、弟子を地獄さながらの目に逢わせたりして描き進める良秀でしたが、やがて「燃え盛る牛車の中で苦しむ女」を描けずに悩みます。

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  1. あらすじ
  2. 感想

あらすじ

殿様と良秀

堀川の殿様は二人といないような豪胆な人物であり様々な逸話があります。 数ある逸話の中でも恐ろしいのが地獄変の屏風の話です。

地獄変の屏風を描いたのは並ぶものがいないと言われる高名な絵師・良秀です。 良秀の人柄は卑しく傲慢な性格で外見も醜くいので、口の悪い人からは猿のようだと言われていました。

良秀と言えば殿様は献上された猿に「良秀」と名付け、城内の者は面白半分に「良秀、良秀」と猿をいじめていました。

良秀の娘

良秀の娘は御邸で働いており、優しい心を持ち器量も良いため、殿様に大層気に入られていました。

ある日、殿様が猿を追い回している所を、娘が「父親が折檻されているようだから」と庇いました。 殿様は「父の命乞いなら仕方ない」と了承し、それから娘と猿はいつも一緒にいるようになりました。

殿様や御邸の者たちも段々と猿の良秀を可愛がるようになりましたが、親の良秀は嫌われたまま猿呼ばわりされていました。

子煩悩な良秀

良秀はけちで欲張りで恥知らずで怠けもので強欲で、とりわけ横柄で高慢でした。 そんな横道者の良秀にもたったひとつ人間らしい情愛がありました。

それは一人娘をとても可愛がっていたことです。 そのため娘が殿様に召し抱えられた時は不満気で苦い顔をしていました。

以前良秀は見事な絵を献上し、褒美を取らせようとした殿様に「娘を返して欲しい」と言ったことがありました。 このような事を言うのは大変な無礼であり、機嫌を悪くした殿様は怒って断りました。

元々良好だったとは言い難い良秀と殿様の仲は、これを機に更に険悪なものへとなっていったのです。

地獄変の制作

ある日、殿様は良秀に「地獄変」の屏風を描くように命じました。

良秀は絵を描くために地獄さながらの光景を見ようと、夢で地獄を見たり、弟子を鎖で繫いだり、猛禽に襲わせたりしました。 この類のことは他にいくつもあり、弟子たちは師匠に殺されてしまうのではないかと思ったほどです。

そうして地獄変の屏風は描き進められ、八分ほどが出来上がった頃です。 何か描けないものができたようで屏風の制作が止まり、あの強情な親爺が人のいない所で独り泣いていました。

娘の事件

その頃、良秀の娘は何か思い悩んでいることがあるようでした。 父思いのせいだとか恋煩いをしているとか噂が流れましたが、やがて殿様が何か従わせようとしているという評判が立ち、ぱったりと噂されなくなりました。

ある晩に女中が廊下を歩いていると、猿の良秀がただならぬ様子でやってきて裾を引っ張ります。 ただ事ではないと猿に案内されるまま付いていくと、奥の部屋から弾かれたように駆けだそうとした娘がいました。

女中は部屋の中を指して「誰です」と尋ねましたが、娘は口惜しそうに首を振るばかりで何も言いませんでした。 女中は娘を宥めて部屋に戻るよう促すと、猿の良秀は人のように両手をつき頭を下げたのでした。

良秀の依頼

それから半月ほど後、良秀は突然城へとやってきて殿様にお目通りを願いました。 屏風は大よそ完成したものの、ただ一つ燃え盛る牛車の中で苦しむ女をどうしても描けないと言うのです。

良秀は「私は見た物でないと描けないから、その光景を見せては貰えないか」と願い出ました。 「自分の見ている前で牛車を燃やし、そしてもし出来るならば…」とまで言ったところで、それを殿様は妙に上機嫌な様子で快諾しました。

これを聞いた女中は殿様の発言に何か凄まじいものを感じ、この時だけは良秀が気の毒な人間に思われました。

地獄変

約束の日は月のない真っ暗な晩でした。 殿様は「牛車には罪人の女を縛って入れてある。お前の望み通りに車に火をかけ炎熱地獄を見せてやろう。」と言います。

「良秀に中の女を見せてやらぬか」とすだれを上げると、なんと中にいたのは良秀の娘でした。 良秀は車へ走り出そうとしましたが、殿様の「火をかけい」という言葉と共に、牛車は炎々と燃え上がりました。

その凄惨な光景を見た良秀の顔は悲しみと驚きに彩られ、それは首をはねられる前の罪人よりも苦しそうな顔でした。 一方殿様は唇を噛みながら時々気味悪く笑って、車の方を見つめています。

その時、猿の良秀が飛び出して燃え盛る車の中へと飛び込んでいきました。 どこをどうやって来たのか分かりませんが、可愛がってくれた娘だからこそ一緒に火の中へ入ったのでしょう。

炎の前で固まっていた良秀でしたが、やがてその表情は恍惚なものへと変わっていきます。 良秀が炎の前で両腕を組んで佇む姿には、怪しげな厳かさすらありました。

結末

この事件は誰からともなく世に流れました。 なぜ殿様が良秀の娘を焼き殺したのかは、叶わぬ恋の恨みだったとか、人殺しをしてまで屏風を描こうとする絵師を懲らしめるためだったとか噂になっています。

良秀はそれから一月ほどで地獄変の屏風を描き上げました。 屏風は見るものを厳かな気持ちにさせ、その出来は偉い僧侶様ですら感嘆するほどのものでした。

それから御邸で良秀を悪く言うものはなくなりましたが、もう良秀はこの世にいませんでした。 一人娘を先立てたせた良秀は、屏風を献上した翌日に首を吊って死んだのです。

感想

この物語で印象的なのが二人の良秀です。 猿のような人の良秀と、人のような猿の良秀ですね。

二人は良秀の一面を象徴する存在です。 人の良秀は絵師としての一面が、猿の良秀は父親としての一面が強く描かれています。

二人の良秀の対比が強く出るのは、娘が焼かれてしまう場面です。 絵師の良秀は燃える牛車を外から眺め、父の良秀は牛車に飛び込んで娘と焼け死にました。

ただどちらが本心という訳ではなく、父親としての心情を猿が代弁していただけなのでしょう。 良秀は見事な地獄変の屏風を完成させ、ほどなくして娘の後を追ったのがそれを物語っています。

この小説「地獄変」は屏風の題名ですが、良秀と一連の事件を指しているように思えてなりません。

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