たけくらべ(樋口一葉)のあらすじ

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たけくらべは1895年に雑誌連載された樋口一葉の小説です。 明治日本の代表文学の一つとして有名で、日本史の授業で題名と作者名が出てきます。

本作の舞台は吉原遊廓で、ヒロインの美登利は15歳になると遊女として働き始めなくてはならない運命にあります。 そんな美登利を中心とした子どもたちが大人へと成長していく様が本作の見どころです。

吉原遊郭の子どもたち

吉原遊廓の生活の有様は他所とは変わっており、15の小娘でも後帯をきちんとすることはありません。 ここで暮らしてこの土地の風情に染まらない子はいないからです。

横町組の頭のわがまま息子・長吉は、表町組の貸金屋の息子・正太郎を目の敵にしていました。 子どもたちは横町組と表町組に分かれて対立していましたが、乱暴者の長吉よりも華やかで頭の良い正太郎の方が人望が厚く、横町組ですら心の中では正太郎を支持している者が少なくありませんでした。

こうなれば祭りの日に喧嘩を吹っ掛けてやろうと、長吉は皆から一目置かれている龍華寺の跡取り息子・信如に加勢するよう頼みに行きます。 信如は同じ学校に通っている縁と長吉への同情から嫌とは言えず、なるべく喧嘩はしないよう諭しつつも味方になることを承諾します。

表町にある大黒屋の美登利は紀州の出身で、吉原で働く両親と売れっ子の遊女を姉に持つ14歳の快活な娘です。 姉のおこぼれで小遣いを貰うことが多く、景気よく散財してしまうこともあって子どもたちから人気がありました。

祭りの日

美登利は祭りの日に何か面白いことをやってくれと子どもたちにせがまれ、正太郎と一緒に映画の上映会をして三五郎に口上を述べさせようと相談します。 三五郎は横町に住んでいましたが、親が正太郎の所に借金をしている義理で表町組に所属していました。

祭りの日、正太郎は夕化粧の長い美登利を待つのにしびれを切らし、三五郎に呼んでくるよう言いつけます。 しかし待っているうちに正太郎は祖母に「夕飯を食べてからにしろ」と連れ帰られてしまいました。

そんな中で長吉が乗り込んで来て、三五郎を「二股野郎」と罵って殴り始めます。 やがて正太郎がいないことに気付き「何処に隠した」と三五郎を痛め付けました。

美登利は「正太郎はここにはいない、殴るなら私を殴れ」と止めましたが、「お前にはこれで十分だ」とわらじを投げてきます。 そうして暴れているうちに巡査がやって来ると、横町組は「いつでも仕返しにこい、こっちには龍華寺の信如がついている」と言って逃げていきました。

信如と美登利

翌日、正太郎は自分がいなかったせいで迷惑をかけたと、三五郎と美登利へ詫びに行きました。 三五郎は泣いて悔しがりましたが、美登利は何も正太郎のせいではないと言います。 そんな美登利の恨みは信如に向いていました。

信如と美登利は同じ学校に通っており、転んだ信如に美登利がハンカチを差し出した時に、周囲から「坊主が女と話をしている」とからかわれた事がありました。 それから信如は美登利を避けるようになり、美登利もそんな捻くれ者と口を利く必要はないと互いの間に溝ができていました。 そんな信如が喧嘩の黒幕だったと思うと悔しくてたまらなかったのです。

当の信如は祭りの当日は用事で街にはおらず、翌日に人伝手に聞いて長吉の乱暴に驚かされました。 ほとぼりが冷めた頃に長吉が詫びにやってきて、信如は今更怒っても仕方がないとこちらかはもう手出しはしないようにだけ言いつけます。 信如は迷惑と後悔を感じつつも、もう喧嘩になることがないよう祈りました。

ある日、店に買い物に来た信如は、店に美登利がいることに気付いて引き返すことがありました。 美登利は一緒にいた正太郎に散々信如の悪口を言いましたが、ちょっと見てやると店から顔を出して信如の後ろ姿をいつまでもいつまでも見送っています。 正太郎はどうしたんだと美登利を突くと、どうもしていない、本当に嫌な男だと気のない返事をしました。

秋の雨の日

ある雨の日、信如が用事のため普段は通らない大黒屋の前に差し掛かった時、下駄の鼻緒が切れてしまいました。 結び直そうにも慣れない事に手間取ってしまいます。

美登利は遠目に困っている人がいるのに気付き、友仙ちりめんの切れ端を差し上げようと出ていきました。 そこで美登利はその人物が信如であることに気付き、顔は赤くなり心臓の鼓動が早くなります。 信如も人の気配に振り返って美登利に気付き、冷や汗が出てきて裸足で逃げ出したい気分になりました。

普段の美登利なら信如が難儀している様を見て笑ったはずですが、何も言わずに格子の影に隠れて、立ち去る訳でもなく胸を鳴らしています。 そうしているうちに母親に「雨が降っているのにそんな所にいたら風邪をひくから戻って来なさい」と言われ「はい、今行きます」と大声で返事してしまい、それが信如に聞こえてしまったのをたまらなく恥ずかしく思いました。

美登利は言いたい事があるのはこっちの方なのに何を憎んでそんなつれない素振りを見せるのか、あんまりな人だと思いながら、切れ端を投げて家へと駆けこんでいきました。

そこへ何か困りごとかと長吉が通りかかったので下駄が壊れたことを話すと、信如のように足の裏が柔らかい人には裸足は厳しいだろうと自分の下駄を差し出します。 信如は長吉の申し出に感謝して用事へと向かい、想いの残る友仙はいじらしい姿を門の外に留めているのでした。

酉の市の日

酉の市の日、正太郎は朝から美登利を探していました。 汁粉屋に知らないか聞くと、美登利が綺麗に着飾って歩いていったことを聞きます。 正太郎は「花魁になるなんて可哀そうだ」と下を向いて言い、美登利を追います。

美登利は華やかに着飾り、その姿はまるで京人形のようでした。 正太郎がとてもよく似合っていると褒めると、美登利は嫌でしょうがないとうつむいて答えました。 美登利は人が褒める言葉は嘲りで、綺麗な美登利を見る目は蔑みの目だと感じていたのです。

美登利は泣きそうな顔で「正太郎さん一緒に来ては嫌だよ」と一人足を早めました。 正太郎が「酉の市に一緒に行くと約束したじゃないか、なぜそっちへ行ってしまうんだ、あんまりだぜ」と子どものように甘えるのを、美登利は振り切るように何も言わずに去ろうとします。 美登利は寮へと帰っていき、正太郎も後を追いました。

美登利は布団の上でうつ伏せになって何も言わずにいました。 正太郎は途方に暮れて「何をそんなに怒っているんだ」と問いますが、美登利はそうではないと言います。 いつまでも人形相手にままごとをしていられればさぞ幸せだろう、大人になるのは嫌だ嫌だ、なぜ年を取るのだろうと。

そして美登利は「後生だから帰ってくれ、あなたにいられると私は死んでしまうだろう」と懇願しました。 正太郎はなぜそんなことを言うのか理解できず、そんな事を言うなんてと目に涙を浮かべていました。 しかし今の美登利が正太郎に気を配れるはずもなく「帰ってくれ」と憎らし気に言うだけで、正太郎はそれならば帰るよと帰っていきました。

正太郎はその帰り道、信如が近々仏教学校に転校することを聞きます。 奴とは一度喧嘩したかったと舌打ちしましたが、しかしそんなことは少しも心に留まらず、美登利の素振りが心の中で繰り返されていました。

美登利は酉の市の日を境にすっかり人が変わり、街で友人と遊ぶことはなくなりました。 いつも恥ずかしそうにして、かつての快活さは見る影もなくなりましたが、母親は「これは中休み」と意味ありげに言っていました。

ある霜の朝、美登利の家に格子門の外から水仙の作り花を差し入れた者がいました。 誰からのものなのか分かりませんが、美登利は何気なく一輪挿しに飾りその姿を愛でていました。 聞くところによると、それが入れられていたのは信如が転校する前日のことでした。

感想

「たけくらべ」という題名ですが、これは二つの事象にかかっているように思います。 一つは横町組と表町組の争いであり、もう一つが本作のテーマである美登利、信如、正太郎を中心に描いた子ども時代の終わりです。

美登利は大きくなってしまった事で、望まない大人=花魁への道を歩み始めます。 信如は己の想いを振り切るため、予定より早く大人=仏教学校へと転校していきます。

正太郎は美登利が花魁になることを知っていましたが、作中の振る舞いを見る限りはそれが何を意味するのかはよく分かっていなかったように思えます。 正太郎は子どものまま話は終わりますが、やがて望む望まないに関わらず大人になっていくことでしょう。

私がこの本を初めて読んだのは正太郎ぐらいの頃でしたが、その頃に一番感情移入できたのは正太郎だったように思います。 しかし今改めて見てみると美登利の言っていることがよく分かりますし、正太郎は酷く無神経な子供にしか見えません。

この頃の私はこんなに無神経だったのか…と思わなくもないですが、そう思えるようになったのもなんやかんやで私も大人になったからなのでしょうか。

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