舞姫(森鴎外)のあらすじ

踊る女性のシルエット

舞姫は1890年に発表された森鴎外の短編小説です。 豊太郎と舞姫エリスは鴎外の知人がモデルとされ、また物語には鴎外自身の経験や心情も取り入れられていると思われます。

豊太郎はエリート外交官としてドイツへと派遣され、踊り子のエリスと出会います。 仕事と恋の狭間で揺れる豊太郎はどのような選択をするのでしょうか。

ドイツへの転勤

豊太郎は早くに父を亡くしましたが、厳しく教育されため成績優秀で、東大法学部を主席で卒業しました。

卒業後は入省して故郷の母を東京に呼び寄せて暮らしていましたが、ある日「ドイツへ行って調べものをしろ」と命令を受けました。 立身出世のチャンスと思い承諾し、豊太郎は単身ドイツのベルリンへとやってきました。

ドイツでは公務をこなしつつ、暇なときは現地の大学へと通っていました。 そうして三年が過ぎた頃、豊太郎は周囲の期待にただ応える機械のような人間から、自由な独立心を持つ人間に変わりつつありました。

今までの自分は勇気を持って道を歩んできた訳ではなく、他人の期待を裏切ることを恐れていただけだったと気付いたのです。

エリスとの出会い

ある日、人通りで泣いている踊り子のエリスと出会います。 聞けば父の葬儀を出さなければならないのにお金がないとのことで、豊太郎が葬儀代を工面することしました。

それをきっかけに二人の親交は始まり、やがて恋仲へと発展します。 しかし当時は外国人との交際はとんでもないことでした。

豊太郎の奔放さを快く思っていなかった省の長官の耳に入ると、豊太郎は罷免されてしまいます。 更に追い打ちのように母の訃報が届きました。

帰国しても汚名を背負った自分の栄達はなく、しかしドイツ留まれば生活費すら捻出できません。 豊太郎は自分の身の振り方に悩みました。

豊太郎とエリスの日々

そんな窮状を助けてくれたのは同行人の相沢で、現地特派員の仕事を紹介してくれました。 何とか生きていくだけの収入を得た豊太郎は、エリスと共につつましくも楽しい日々を過ごします。

それからしばらく経った頃、相沢に大臣からの仕事を紹介されました。 大臣は豊太郎の悪評を知っていて最初は良い気がしなかったようでしたが、高い能力で誠実に仕事をこなす豊太郎を徐々に気に入ります。

そんな折に相沢から「女に入れ込んで有望な将来を棒に振るな」と諭されました。 豊太郎は遠まわしな「エリスと別れろ」と言う話に承諾します。

エリスの別れ

やがて大臣が帰国する時期になると、大臣は豊太郎に一緒に日本に来てくれないかと話しました。 これはもちろんエリスとの関係を断った上での話です。

これを逃せば栄達は望めないと二つ返事で承諾した豊太郎でしたが、後からエリスを見捨てる決断をしたことに悩み苦しみます。

見捨てられた事を知ったエリスは精神が錯乱して物を投げ散らかし、産まれてくる子のために用意していたオムツただ一つを身の回りに置いて泣き明かしました。

エリスの母にわずかばかりの金を与えてエリスと産まれてくる赤子を頼み、豊太郎は帰国の途につきました。 相沢の事は二度と得られないほどの良き友だと思いますが、豊太郎の脳裏には一点の彼を憎む気持ちが消え去りません。

舞姫のモデルは森鴎外の実体験

実はこの話、鴎外やその周囲をモデルにした要素が多分に含まれています。 主人公のモデルは軍医・武島務、舞姫のモデルは諸説ありますが鴎外の陸軍省留学生時代の恋人ドイツ人女性エリーゼ・ヴィーゲルトであると考えられています。

鴎外はドイツにてエリーゼと恋仲でしたが、海軍中将赤松則良の娘との縁談がありそちらを選びました。

エリーゼは上流階級婦人なので鴎外とは不倫関係であり、またエリスのように貧困に喘いでいた訳ではありません。 しかしエリーゼを置いてドイツを後にする鴎外の心境は主人公・豊太郎と重なる所があったのではないでしょうか。

もしかすると鴎外が舞姫を描いたのは贖罪のためであり、豊太郎に己を重ねて読者に非難されるのを望んだのかもしれません。 なお鴎外は帰国後もエリーゼと文通を続けていたそうです。結構いい性格していますね。

感想

舞姫を一行でまとめると「エリートの男が妊娠した彼女を捨てて仕事を選んだ話」です。 捨てられた彼女と赤子が悲惨な境遇となったのは容易に想像でき、その選択をした豊太郎が読者から誹りを受けるのは免れないでしょう。

しかし豊太郎がどこから間違っていたのかを考えれてみると中々難しい問題です。 途中途中は状況に流されるしかなかったので間違いは最初から、つまりエリスと関わったことが間違いだったのですが、それはそれで救いがないですよね。

豊太郎は優柔不断で状況に流されやすい所はありますが、自分本位の人間と言うほどではありませんでした。 そんな豊太郎が恋人を置いて日本に帰る選択をした時の心苦しさはよく描写されています。

相沢を若干恨んでいる節があるのも、そんな心境の表れでしょうか。 頭では自分が悪いことを理解していても、心はそう単純ではないですからね。

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