ヴェニスの商人(シェイクスピア)のあらすじ

The Merchant of Venice

ヴェニスの商人は1594年頃に発表されたシェイクスピアの喜劇です。 この物語は一般的には喜劇とされていますが、そう簡単に割り切ることはできない味わい深い物語です。

ヴェニスの商人アントニオは友人の結婚資金のため、悪名高い金貸しのシャイロックに借金をします。 シャイロックは利子を取らない代わりに返済できなければ肉1ポンドを取り立てると言い、それを了承したアントニオでしたが…。

アントニオとシャイロック

中世イタリアの街ヴェニスでのお話です。

バサーニオは富豪の娘ポーシャの心を射止めるためにお金が入用で、友人の商人アントニオにお金を借りにきました。 アントニオは快諾しますが財産のほとんどを船団での交易に費やしていたため、悪名高い金貸しのシャイロックに借金を申し込むことにしました。

シャイロックは借金の利子を取るため、無利子の慈悲を旨とするキリスト教徒のアントニオとの仲は険悪でした。 しかし意外にも利子はいらないと言い、代わりに3か月以内に返済できなければアントニオの肉1ポンドを取り立てたいと申し出ます。 アントニオは船団が帰ってくれば問題なく返済できると思って了承しました。

しかし日が経つとアントニオの船団が難破したという噂が立ちます。 噂話を聞いたシャイロックは、噂が本当ならせいぜいアントニオを苦しめてやろうとほくそ笑むのでした。

シャイロックとジェシカ

シャイロックにはジェシカという心優しい娘がいました。 しかし父親のことをあまりよく思っておらず、家を逃げ出してロレンゾと一緒になりキリスト教に改宗したいと考えていました。

仮装舞踏会の日、ジェシカは男の子に変装してロレンゾの元へと逃げだします。 そしてアントニオの窮状をパサーニオに伝えにいく交易仲間と共に、二人もベルモンドへと向かいます。

シャイロックは娘が金や宝石を持ち出して逃げたことを知ると大騒ぎして探しました。 しかし娘は見つからず、死んだ妻にもらった指輪が売られたことを知って怒り狂います。

シャイロックはアントニオが終わりなことは確かだ、あいつがいなくなれば全て上手くいくと言って気持ちを落ち着けるのでした。

パサーニオとポーシャ

パサーニオはポーシャに求婚するためベルモンドへとやって来て、ポーシャの父の遺言である結婚試験に挑みます。 試験は金・銀・鉛の3つの箱から正しいものを選ぶもので、箱には以下の文言が書かれていました。

過去ポーシャに求婚した男たちは、ある者は「衆人の求めるものこそポーシャだ」と金の箱を選択し、ある者は「私に相応しいものこそポーシャだ」と銀の箱を選択しました。 皆が「鉛のために全てを投げうつことなどできない」と考え、誰もポーシャと結婚する事は叶いませんでした。

しかし友の助けによってこの場に来たパサーニオは、自分を謙虚に見つめて鉛の箱を選択します。 正解の箱を選択したパサーニオは見事ポーシャへの求婚に成功します。

互いに愛を誓い祝福に包まれる中、アントニオの窮状を伝える使者たちが来ます。 パサーニオはアントニオとの友情のためヴェニスへと戻り、また事情を聞いたポーシャもロレンゾとジェシカに留守を頼んで密かにヴェニスへと向かうのでした。

裁判

ヴェニスの裁判にて、シャイロックは契約通りアントニオの心臓の肉1ポンドを取り立てようとしていました。 大公はシャイロックに翻意して慈悲を見せるよう促し、パサーニオは借金の倍額を払うことを申し出ましたが、シャイロックは頑として聞き入れません。

ヴェニスにおいて法は絶対であり、キリスト教徒にもユダヤ人にも同等の権利が認められています。 大公にもパサーニオにもこればかりはどうしようもありません。

そこに法学者に扮したポーシャが推薦状を携えてやってきて裁判を担当することになりました。 ポーシャもシャイロックに慈悲を与えるよう促しますが、やはりシャイロックは譲りません。

ならば仕方ないと、ポーシャは契約通り肉1ポンドを切り取っても良いと判決を下します。 シャイロックは判決に満足してナイフを持ってアントニオに近づきますが、ポーシャは契約には血は含まれないので肉を切り取る際に血を一滴も流してはならないと注意します。

シャイロックはそんなバカな話があるかと怒りますが、法を司る裁判官には逆らえません。 悪態をついて立ち去ろうとしましたが、ポーシャはシャイロックを呼び止めてアントニオに危害を加えようとした罪を問います。

シャイロックには財産を没収した上で死刑にする判決が下りました。 しかしキリスト教徒の慈悲により減刑され、シャイロックへの措置はキリスト教への改宗と財産の半分を娘のジェシカに与えることになりました。

大団円

パサーニオはポーシャの変装に気付いておらず、是非お礼がしたいと申し出ました。 ポーシャは自分の正体に気付かないパサーニオをからかってやろうとして結婚指輪を要求します。

パサーニオはこればかりは渡せないと渋りましたが、ポーシャがどうしてもと食い下がるので受けた恩の大きさを考えて結婚指輪を渡してしまいます。

ベルモンテへと戻ったパサーニオは、法学者に結婚指輪を渡してしまった事をポーシャに打ち明けます。 必死に許しを請うパサーニオをさんざん弄んで楽しんだ後、ポーシャはあの法学者は自分だったと打ち明けるのでした。

そうしていると難破したと思っていたアントニオの船団は無事だった報告が入ります。 これで生きているうちに心配することは何もないと、一同はそれぞれ我が家へと帰っていくのでいした。

感想

この物語はざっと読むと正義のキリスト教徒たちが悪の商人シャイロックを懲らしめる話です。 しかしよくよく読んでみると、物語はそう単純なものではありません。

パサーニオは見方によっては借金を返すアテに富豪の娘を狙う屑にも見えます。 またキリスト教徒たちがユダヤ人を見下し侮蔑している描写も多いです。

シャイロックも人柄が悪いのはさておき、酷い契約を結んだ事を除けば言うほど悪人には見えません。 シャイロックの持つキリスト教徒への強い敵意は、キリスト教徒から受けている迫害への反動のようにも思えます。

主役であるキリスト教徒の欠点と、敵役であるシャイロックの美点が意図的に描かれているのは面白いですね。 表向きは勧善懲悪物語ですが、シェイクピアの言いたかったことはそう単純ではないのかもしれません。

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