リア王(シェイクスピア)のあらすじ
リア王は1604年頃に発表されたシェイクスピアの悲劇で四大悲劇のひとつに数えられています。 この話はブリタニア列王史のレイア王をモデルに書かれていますが、結末が悲劇的なものに改変されています。
イギリス王リアは老齢を理由に三人の娘に領土を与えて隠居しようとします。 「最も自分のことを深く想う娘に良い領土を与えよう」と言いましたが…
リア王の退位
イギリス王リアはもう歳なので三人の娘たちに国を譲って自分は隠居したいと考えていました。 そこで領地を三分割し、自分の事を最も深く想っている娘から順に分け与えることにしました。
長女ゴネリルと次女リーガンは、自分が如何に父王を深く想っているかを美辞麗句を並べて述べました。 しかし三女コーデリアは父をお慕いするのは子として当然の事で、申し上げることは何もないとしか言いません。
王は三女の素っ気ない言葉に怒り、もう勝手にしろ、今からお前とは家族ではなく赤の他人だと言い放ちます。 そして領土は姉二人に二分して与え、コーデリアには何も与えないことにしました。
忠臣ケント伯が甘言に乗せられている王を諫めようとしますが、王は聞く耳を持たずにコーデリアとケントを追放してしまいます。 コーデリアに求婚していたフランス王は、率直なコーデリアの心を評してフランス王妃として迎え入れます。
姉二人はそんなリアの耄碌ぶりを話し合います。 可愛がっていた末妹を放り出し、忠臣ケント伯の忠言を聞き入れずに追放したのは分別が無くなった証拠です。 その気まぐれが自分たちに向かないとは限らない、何かいい手はないかと相談を始めていました。
ゴネリルの館にて
リアは二人の娘の下にひと月置きに滞在することにし、まず長女ゴネリルの下で過ごしていました。
リアは自分の召使に小言を言ったゴネリルの召使に手を挙げるなど、その横暴ぶりは目に余るものがありました。 そこでゴネリルはリアを懲らしめるべく、蔑ろに扱うことに決めました。
リアはかつて王だった時にゴネリルから感じられていた誠意や情愛が無くなったように感じていました。 ゴネリルに文句を言おうとしても会う事すらできないので、代わりに夫に文句を言っても言い返される始末です。
そこにゴネリルがやってくると、リアにもっと分別を付けるよう言い、リアの伴の兵を半分に減らしてしまいます。 腹を立てたリアはもうゴネリルの世話にはならないと、次女リーガンの下へと向かいます。
グロスター城にて
ゴネリルから手紙で状況を聞いていたリーガンもリアに付き合う気はなく、夫コンウォールと共にグロスターの城を訪れていました。
グロスターはリアの重臣であり、正妻の子である長男エドガーと愛人の子である次男エドマンドの二人の息子がいました。 エドマンドは愛人の子である事を理由に軽んじられており、兄を陥れて父の領地を引き継ぐ野心を抱いていました。
そこでエドマンドは、父には兄が命を狙っている、兄には父が命を狙っていると言い含めていました。 身の危険を感じたエドガーは城から逃げ、グロスターはエドガーを勘当してエドマンドに領地の相続権を与えます。
そこに居合わせたコンウォールは、身を挺して親を守ったエドマンドに感服して彼を召し抱えることにしました。
一方リアはリーガンの館へ来ましたが、そこにリーガンはいませんでした。 急な用事にしても知らせを寄越さないのはおかしな話だと訝しみながら、リーガンがいるグロスター城へと向かいます。
そしてリアはようやくリーガンに会うとゴネリルの酷い仕打ちを訴えましたが、リーガンはゴネリルを肯定しリアの耄碌を非難しました。 言い争っているとそこにゴネリルもやってきて、姉妹はふたりして父を責めます。
荒野にて
リアは二人の娘に責められて気が狂いそうになり、嵐の荒野へと飛び出していきました。
荒野を彷徨っていたリアをケントが見つけ、小屋の中へと避難させます。 そこには父殺しを企てた罪で追放されたエドガーもいました。
そこにリアを救うべくグロスターがやってきました。 グロスターはリアを庇ってコンウォールの不興を買い城を取り上げられてしましたが、それでもリアを匿うためにやってきたのです。 実はグロスターはフランスと通じており、リアたち一行をドーヴァーにいるフランス軍に匿ってもらおうとします。
グロスターの失敗
グロスターがフランスと通じていることは、息子のエドマンドに密告されていました。 コンウォールに捕まったグロスターは、両目を抉られる激しい拷問を受けました。
あまりに非道な拷問にグロスターの召使は憤慨し、己の命と引き換えにコンウォールに致命傷を与えます。 そして光を失ったグロスターは追放されるのでした。
彷徨うグロスターは身分を偽った息子のエドガーと出会い、身投げのためにドーヴァーの断崖までの道案内を頼みます。 エドガーは父の絶望を取り除きたいと考え、平坦な場所を断崖だと言って飛ばせてグロスターに身投げしたと思い込ませます。
その後エドガーはショックで気絶していたグロスターを起こし「あなたは奇跡によって死なずに済んだ、これからは気を大きくして生きると良い」と伝えます。 そこにリアも現れ、一行はコーデリアが率いるフランス軍に匿われます。
イギリスとフランスの戦争
コーデリアは父を救うべくフランス王に懇願し、軍を出してもらってドーヴァーまで進軍していました。 コーデリアは変わり果てたリアと再開し、リアは半ば正気を失っている中でコーデリアに過去の仕打ちを詫びます。
一方イギリス陣営では、グロスター伯になったエドマンドが己の野心のためにゴネリルとリーガンに言い寄っていました。 ゴネリルとリーガンはエドマンドに好意を抱くようになりましたが、そのせいで姉妹はエドマンドを巡って腹の探り合いをするようになり、エドマンドは今後に一抹の不安を感じます。
イギリスとフランスの戦争はイギリス軍の勝利に終わり、リアとコーデリアは捕虜になってしまいます。 しかし勝利したイギリス軍もゴネリルとリーガンの身内争いにより陣内は混沌としていました。
結末
甲冑を纏って身分を隠したエドガーは、イギリス陣営にエドマンドとの決闘を申し出にやってきました。 エドガーはエドマンドを打ち負かして致命傷を与え、自分はお前が追放した兄であると明かします。
エドマンドは己の因果が応報したことを知ります。 そこにリーガンがゴネリルに毒を盛られて殺され、ゴネリルも短剣を胸に刺して自害した報告が入ります。
エドマンドはこうして三人一緒に婚礼を挙げるのかと自嘲します。 そして最後に善行をと、リアとコーデリアの処刑命令を出していることを知らせます。
エドガーは二人の処刑を取り消すため牢獄へと急ぎましたが時すでに遅く、コーデリアは殺され、正気を失ったリアはコーデリアの死骸を抱いて嘆いていました。 リアはこの世に絶望しながら、コーデリアの後を追うように息を引き取ります。
残されたエドガーはこの不幸な時代の責務を背負い、国を立て直すことを誓うのでした。
感想
この物語で印象的なのは、姉二人とコーデリアの対比です。 狡猾な姉二人と誠実なコーデリアと対称的に描かれていますが、しかしコーデリアが正しいのかはまた別の話です。
リアが耄碌して横暴さを増していたのは確かであり、そんなリアを尊重していては問題になることは目に見えています。 仮に娘三人の性格が全員コーデリアのようだったなら、王は激怒して三人を追放し権力を持ったまま横暴さを増していったことでしょう。
姉たちも別段リアを殺そうとか考えていた訳ではなく、隠居老人としての分を弁えさせようとしただけです。 リアの扱いに限って言えば、正しい判断を下していたのは三女ではなくむしろ姉たちだったようにも思えます。
またコーデリアはイギリスへリアを助けるという名目でフランス軍を連れてやってきました。 これはイギリスから見ればフランスの軍事介入に他ならず、無用な諍いを招いたコーデリアは作中最大の大戦犯とも言えます。
また忠臣ケントも一貫してリアの忠臣ではありましたが、時と場所を弁えずに感情的に襲い掛かって騒ぎを起こしていました。 これらを見るにシェイクスピアは誠実さを正しさとは見ていないような節があるように思えますね。
三姉妹が姉の狡猾さと妹の誠実さを併せ持っていれば、適当にリアをあしらいつつも争いは起きずにハッピーエンドになり得たような気もします。 シェイクスピアが結末を悲劇的なものにしたのも、そんな意図があったのかもしれません。