走れメロス(太宰治)のあらすじ
走れメロスは1940年に発表された太宰治の短編小説です。 教科書への掲載、漫画化、演劇の上演などもされており、太宰作品の中でも特によく知られています。
無鉄砲で向こう見ずだけど曲がった事が許せない青年メロスが、人を信じられない王に人間の信実を証明する人間賛歌の物語です。
ディオニス王とメロス
村の牧人メロスは妹の結婚式の道具を揃えるために街へとやってきましたが、街は静まり返り以前と様子が違うことを訝しみます。 市民に話を聞くと原因はディオニス王にあり、疑い深い王は人を信じられず毎日誰かを処刑していると言います。
それを聞いたメロスは激怒し王宮へと乗り込みましたが、兵士に捕まりディオニス王の前へと連れて行かれます。 メロスは罪なき人を殺すディオニス王を罵倒しましたがまともに取り合われず、お前も磔にされれれば泣いて命乞いをするだろう言われます。
メロスはそれを否定しますが、妹の結婚式に出られないまま死ぬのは心残りでした。 そこで親友のセリヌンティウスを人質にすることを条件に結婚式に行く猶予を願い、3日後の日没までに戻ってこなければセリヌンティウスが処刑される運びとなりました。
ディオニス王はメロスが戻ってこないと考えており、またメロスには「少し遅れてくるが良い」と言いました。 セリヌンティウスを処刑し、人の不実を広く知らしめようと企んでいたのです。
妹の結婚に行くメロス
深夜に城へと召されたセリヌンティウスは、メロスから事情を聞くと無言で頷きメロスを抱きしめます。 メロスはその晩一睡もせずに十里の路を急ぎ、翌朝に村へとたどり着きました。
メロスは事情は伏せて妹の結婚式を明日にするように皆を説得しました。 翌日は大雨となりましたが結婚式は恙なく終わり、メロスは妹夫婦を祝福します。
そうして更に一夜明けて迎えた約束の日の朝、メロスは人の信実を証明するためディオニス王の下へと出発します。
走れメロス
メロスは自分が処刑されることを考えると何度も立ち止まりそうになります。 しかしその度に自分を叱って再び走り出しました。
やがて川に差し掛かると、前日の豪雨の影響で川が激流となり橋が流されていました。 メロスは川の前で立ち尽くしましたが、約束を思い出して激流を渡る覚悟を決め、なんとか向こう岸に辿り着きます。
渡河に想定外の時間を取られたメロスは先を急ぎますが、今度は山賊に襲われます。 何とか逃げ延びることはできましたが、疲労困憊でついに寝転んでしまいました。
「これだけ頑張ったんだからもういいだろう」とまどろんでいると、ふと水の流れる音が聞こえてきました。 吸い寄せられるように泉の水を飲むと再び気力がわき上がり、友の信頼に報いるために再び走り出しました。
日は沈みかけ刑場ではセリヌンティウスの処刑が始まろうとしていました。 そこにメロスは這う這うの体で辿り着き、メロスとセリヌンティウスは互いに抱き合います。
ディオニス王は己の誤りと人の信実を認め、そして「どうか自分も二人の仲間にしくれないだろうか」と願い出ます。 群衆に歓声が起こり、人々は王を称えました。
感想
後先考えずに王宮に突っ込んで案の定捕まったり、いざ処刑される時にやっぱり妹の結婚に出たいと言い出したり、親友を身代わりにして結婚式に出たりなど、メロスの行動は行き当たりばったりです。
「結婚式が終わってからやれ」とか「約束に間に合うように余裕を持って行け」とか、誰もがメロスにツッコミを入れたことでしょう。 しかし本作は期限ぎりぎりの読書感想文のために読まれることが多いので、そんな人にはメロスと自分が重なって見えたかもしれませんね。
この話を改めて見てみると、登場人物がとても人間臭く見えました。 セリヌンティウスは善人ながらもメロスを疑い、暴君は悪人ながらも改心する余地と度量を持ち合わせ、民衆は尻馬に乗っただけです。 皆が等身大の人間だったと言えるでしょう。
そして同じく等身大の人間であるメロスが、何度も挫けそうになりながらも立ち上がり、遂には人の信実を証明したのがこの物語の素晴らしいところだと思います。
ちなみに劇中の王ディオニスは紀元前400年頃にイタリア南部で勢力を誇っていたディオニュシオス1世をモデルにしています。 暴君として名高い人物で、その悪名からか創作物に登場することがあります。
走れメロスの発端?熱海事件
走れメロスは作者の太宰が熱海で起こした珍騒動「熱海事件」がもとになっているのではないかと言われています。
熱海で執筆していた太宰から内縁の妻に「金がないから届けて欲しい」と連絡が来たため、妻は太宰の親友・檀一雄に金を預けて太宰を連れ帰るよう依頼します。
しかし太宰はその金を受け取ると檀を誘って遊びまわり、そのうちに金がなくなりました。 すると太宰は「菊池寛に金を借りてくる、明後日には帰ってくるからここで待ってて欲しい」と檀を残して東京へ向かいました。
しかし三日経っても太宰は帰ってこず、不審に思った檀は太宰を探しに東京へ向います。 すると太宰は井伏鱒二と将棋を打っており、檀が文句を言うと太宰は「待つ身が辛いかね、待たせる身が辛いかね」と言ったそうです。
檀は走れメロスを読んで、この熱海旅行が作品の心情の発端になったのではないかと話しています。 もっとも太宰はメロスのように約束に間に合いませんでしたけどね。