セメント樽の中の手紙(葉山嘉樹)のあらすじ

汚れた机の上にある手紙

セメント樽の中の手紙は1926年に発表された葉山嘉樹の短編小説です。 セメント工として働く底辺労働者の厳しい生活を描いたプロレタリア文学で、労働者の悲哀とどうにもならない現状がよく描かれています。

セメント工場で働く与三は、ある日セメントの中に小箱を見つけます。 金目のものでも入っていないかと持ち帰り、開けてみると中から手紙が出てきました。

セメント工場にて

与三はセメントをミキサーに入れる作業員でした。 セメントの粉塵が舞う劣悪な環境で、鼻に入ったコンクリ片を拭う暇もないほど忙しい仕事でした。

ヘトヘトになりながら作業をしていましたが、終業近くにセメントの中から木の小箱が出てきました。 本来はこんなものが入っているはずはなく不思議に思いましたが、忙しかったので金目のものであることを期待してポケットにしまい仕事を続けました。

帰路にて

与三は仕事が終わると店で一杯ひっかける想像をしながら真っすぐ家路につきました。 安い給料と厳しい生活を考えると店で酒を飲むなんて贅沢ができるはずはありません。

そんな折にふと木箱の事を思い出し、開けてみると中から手紙が出てきました。 手紙の主はセメント会社の女工で、同僚の恋人のことが書かれていました。

セメント樽の中の手紙

恋人は粉砕機に巻き込まれて死に、立派なセメントになってしまいました。 私の恋人が劇場の廊下や大きな邸宅の塀になったりするのは忍びないですがどんな所にでもお使いください。

立派な人物だった彼はきっと立派にセメントとしての役目を果たすでしょう。 あなたが労働者であれば恋人が何になったのかを知らせてくれれば幸いです。

家に帰った与三は茶碗に注いであった酒を飲み欲し「へべれけに酔っ払って何もかも打ぶち壊してやりたいなあ」と怒鳴りました。 しかし大きなお腹の妻に「そんな事されてたまるものですかと」窘められるのでした。

感想

底辺労働者のどうにもならない日常が淡々を描かれた作品です。 恋人が死んでセメントになったという衝撃的な出来事があったにも関わらず、現実は何も変わらないというやりきれない内容になっています。

手紙にて女工は一旦は「セメントを劇場や大きな邸宅には使って欲しくない」と懇願しましたが、しかしすぐに翻意しています。

これは恋人を殺し労働者を酷い目にあわせている金持ちのための建物に使われたくないという気持ちと、こんな事を言っても現実は何も変わらないという、願望と諦観だったのではないかと思います。

与三の「何もかも打ぶち壊したい」という発言も、どうしようもない現実に対する怒りだったのでしょう。 しかし妻と子という現実に窘められ、これからも変わらず苦しい日々は続いて行くであろうことを予感させられます。

不満を抱えて憤りを感じているけれど現状を変える力がない。 本作は短いながらもどうにもならない労働者の悲哀がよく描かれた作品です。

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