外科室(泉鏡花)のあらすじ

gekashitsu

外科室は1895年に発表された泉鏡花の短編小説です。 多分奥ゆかしい恋愛をテーマにした小説ですが、人によってはホラー小説に思えるかもしれません。

伯爵夫人の手術を始めるため麻酔を打とうとしますが、夫人は己の秘密を漏らしてしまうのを恐れて麻酔を拒みます。夫人は麻酔なしで手術を始めろとまで言いますが、そこまでして隠したい秘密とは…

手術前

私は画家であることを口実に、兄弟のような関係の高峰医師に請うて貴船伯爵夫人の手術を見学させて貰うことになりました。

外科室に入ると中には高峰医師と医療スタッフたち、そして手術に立ち合う親族たちがいました。親族たちの中でもとりわけ沈痛な面持ちなのが伯爵でしょう。

夫人はまるで死体のように横たわっており、そのか弱く気高い姿には寒気を覚えました。しかし高峰はまるで夕食の席にでもいるかのように平然と椅子に座っていました。

高峰と夫人

手術を始めるため夫人に麻酔剤を打とうとしますが、夫人はそれを頑なに拒みます。 麻酔を打たなければ手術ができないと言っても、それなら手術できなくても良いと言うのです。

看護婦はなぜそうまで麻酔を拒否するのかと尋ねると、夫人には秘密があり、麻酔で朦朧となった時に秘密を漏らすことを恐れていると言うのです。夫人は「麻酔なしでも手術はできる、高峰医師なら問題ない」と言い張り、看護婦に自分の体を押さえさせてそのまま手術を始めろと言います。

いくら言っても聞かないので、高峰医師はやむを得ず麻酔なしで手術を始めました。 高峰医師の執刀は神速で、わずかな時間で胸を開き骨に達しようとしました。 その時夫人は「あっ」と深刻な声をあげ、高峰の右腕に両手で掴まります。

高峰の「痛みますか」という問いに、夫人は「いいえ、あなただから」と言いかけます。そして凄惨極まりない目で高峰を見ながら「でも、あなたは私を知らないでしょう!」と言うと、夫人は高峰の持つメスで自分の胸を深く切り裂いてしまいました。

高峰は真っ青になりながらも「忘れません」と言うと、夫人は嬉しげにあどけない微笑みを浮かべ、高峰を握っていた手を放してぱったりと伏します。その光景はまるで世界に二人だけであるかのように見えました。

九年前の出来事

九年前、高峰がまだ医学生だった頃の話です。 私と彼は植物園を散策している時に美しいご令嬢とすれ違い、その日は植物そっちのけでご令嬢の美しさについて語り合いました

それ以降の九年間、高峰はあの女性について一言も語りませんでした。 そして高峰は妻がいてしかるべき身分と年齢なのに、独身で学生の時よりも品行方正になりました。

二人は同じ日に亡くなりました。 彼らは罪悪により天に行くことはできないのでしょうか。

感想

高峰医師と伯爵夫人は九年前に植物園ですれ違い、恐らくはそれきりの仲です。 二人はそこで一目ぼれの両想いとなり、その想いを胸に秘めたまま九年が経ったのでしょうね。

ご令嬢は伯爵夫人となりましたが想いは変わらず、だからこそ麻酔で秘密を漏らしてしまうことを恐れたんでしょうね。 夫人が手術中にほ自死を選んだのは、秘密を漏らしたからなのか、想いに殉じたかったのか。

高峰も夫人と同じ日に亡くなりましたが、これは自死によって後を追ったものだと思われます。 タイトルからは全く想像ができませんが、美しくも鮮烈な恋愛物語です。

とこで冒頭の「私の好奇心」とは一体何に対するものだったのでしょうね。 単に手術を見たかったのか、患者が伯爵夫人だからなのか、高峰医師の想いを察していたのか…

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