破られた約束(小泉八雲)のあらすじ

OF A PROMISE BROKEN

破られた約束は1901年に発表された小泉八雲の怪談です。 小泉八雲が妻・節子から聞いた怪談を文学にしたものであり、これはその話のひとつです。

死にゆく妻と後妻を迎えない約束をした夫でしたが、周囲の説得もあって約束は破られます。 すると後妻が一人でいる夜にどこからともなく鈴の音が…

「私は死を恐れているのではありません。私が悩んでいるのはただ一つ、誰が私亡きあとに私の代わりをするか知りたいのです。」 死の床についた妻は夫に問いました。

「誰もお前の代わりをする者などいない、武士の名に懸けて私は二度と結婚しない。だからそんな死んだ後のことなんて話すな。」と夫は答えます。

妻は自分の病気のことは自分がよく分かっていると言うと、微笑みながら「私を庭の梅の下に埋め、棺の中に巡礼者が持つ鈴を入れて欲しい」と懇願します。

夫が承諾すると妻は感謝し、微笑みながら眠るように死んでいきました。 その遺体は彼女の願い通りに、庭の木の下に鈴と一緒に埋葬されました。

それから一年後、武士は周囲から再婚するように勧められます。 お前はまだ若いし子もいない。このままでは家が断絶してしまうと説得され、庭の墓に若干の後ろめたさを感じつつも、後妻を迎えることになりました。

若い夫婦の幸せを妨げるものはありませんでした。結婚から七日目の晩までは…

その晩、夫は勤めで家を空けなければならず、一人残された後妻は言いようのない不安を感じていました。 妙に不気味な空気を感じて眠れずにいると、外で鈴の音が鳴ったのが聞こえます。

こんな時間に巡礼者とは妙なものだと思っていると、段々と鈴の音が近づいてきます。 異変に気付いて使用人を起こしに行こうとしましたが、体が言う事を聞きません。

ついに部屋の戸が開き、墓衣を着て鈴を持った女が入ってきました。 女は目がなく空洞で、ほつれた髪がぼとぼとと地面に落ちていきます。 そして舌のない口で話し始めました。

この家は私の家だ、私があの人の妻だ、すぐに黙って出ていけ、この事を他人に話せばお前を八つ裂きにしてやるぞ、と。

あまりの恐ろしさに後妻は気絶し、気付くと朝になっていました。 昨夜の出来事は本当に現実だったのか、悪い夢ではなかったのかと思い、誰かにあえて話すことはしませんでした。 しかしその晩にも同じように女が現れ、同じように妻に黙って出て行くように迫るではありませんか。

翌日、後妻は勤めから帰って来た夫に「訳は言えないが実家に帰らせて欲しい」と泣きながら懇願しました。 しかし夫は「離婚となっては家の名誉にかかわる、なぜそんなことを言うのか理由を話して欲しい」と言います。 妻はやむを得ず事の顛末を話し「こうなってしまったからには私は殺されてしまうでしょう」と嘆きました。

夫は悪い夢でも見たのではないかと妻を宥めます。 そして今夜も勤めに出なければならないので、代わりに二人の家来に妻を護衛させることにしました。 妻は夫の愛情と思いやりから自分が恐怖していたことを恥じ入り、家に留まることにしました。

その晩、精強な二人の家来は碁を打って寝ずの晩をしていました。 しかし深夜、不意に鈴の音を聞いて後妻は目を覚まし、段々と近づいてくることに恐怖して悲鳴を上げました。

後妻は飛び起きて家来たちのいる部屋に急いで逃げましたが、二人は時間が止まっているかのように互いを見つめたまま動きません。 大声で呼びかけ揺さぶっても目を覚ますことはありませんでした。

後ほど家来たちが語ったことによると、鈴の音と叫び声が聞こえ、体を揺さぶられたのも分かったが、微動だに出来なかったそうです。

明け方に夫が部屋に戻ると、後妻の首の無い死体が血だまりの中に横たわっていました。 家来たちは碁版の前に座ったまま眠っており、夫の大声で目を覚ました二人は目の前の凄惨な光景に唖然としました。

部屋に首はなく、血痕は屋敷の庭へと続いており、その先には腐りかけた先妻が後妻の首を持って立っているではありませんか。 家来が刀で切りつけると幽霊は崩れ落ちましたが、千切れた手はそれでも後妻の頭を引き裂き続けていました。

後書き

私は友人に「先妻は夫に復讐すべきはなかったのか?」と問いました。 すると友人は「男性はそう考えるだろう」と言いつつ「しかし女性はそうは思わないだろうね」と話しました。 きっと彼の言う事が正しいのでしょう。

感想

普通に怖くて夜に聞いたらトイレに行けなくなりそうです。

この話が収録されている「怪談」には様々な怪談が収録されていますが、怖いというよりは不思議な話が多いです。 しかしこの「破られた約束」はその中でも個人的に一番怖かった話です。

最後の会話は小泉八雲と友人によるこの怪談話の感想です。 どうやら友人の方が女性というものをよく分かっているようです。

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