ことわざ「健全なる精神は健全なる身体に宿る」は本来の意味と違う

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私が子供の頃はインドア遊びが大好きで、外で運動する頻度はそれほど多くありませんでした。「健全な精神は健全な肉体に宿るんだから、外で遊んできなさい」と親に外へ放り出されたりしたものです。

このように日本ではこの言葉は「肉体が鍛えられれば精神も鍛えられる=体を鍛えなさい」という用途で使われることが多いです。 しかしこの言葉、実は最初は全く別のニュアンスで使われていたのです。

「健全なる精神は健全なる身体に宿る」の変遷

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ことわざ「健全なる精神は健全なる身体に宿る」

まずは日本での「健全なる精神は健全なる身体に宿る」の意味をことわざ辞典で確認してみましょう。

体が健康であれば、それに伴って精神も健全であるということ。また、何事も身体がもとであるということ。

いくつか辞書を引いてみましたが、どれも大体上記のような記述がありました。 体が健全ならば心も健全になると言ったニュアンスで、どちらかと言えば体を重視しているように受け取れます。

続いて元ネタでの用途を見てみましょう。

ユウェナリスの「健全なる精神は健全なる身体に宿る」

「健全なる精神は健全なる身体に宿る」という言葉は、1~2世紀頃のローマの詩人ユウェナリスが書いた『風刺詩集』の一節が元になっています。

ざっと内容を説明すると「神に色々な願いをする者がいるが、その願いが成就しても幸せになるとは限らない。 金を得て破滅した者、栄誉を得たために惨めな晩年となった者、美貌を持ったために悲惨な目に合った者など枚挙に暇がない。 神への願い事はほどほどにして、心身の健康を祈るが良い。」といった事が書かれています。

「大欲を抱かずに心身の健康を祈りましょう」と言っているだけで、どう解釈しても前述したことわざの意味にはなりませんよね。 なぜ意味が変わってしまったのかと言えば、軍事国家のプロパガンダとして歪めて使われた経緯があるのです。

軍事国家によるプロパガンダ

近代において列強国は戦争のために富国強兵を進めていました。 その一環として掲げていたスローガンが「健全なる精神は健全なる身体に宿る」です。

一見するとユウェナリスの一節によく似ていますが、その意味はまるで変わってしまっています。 ユウェナリスが「大欲を抱かず心身の健康を願いましょう」としか言っていないのに対し、こちらは「身体を鍛えれば精神も鍛えられる」という肉体信奉の言葉です。 もちろん改変は意図的なものであり、肉体を鍛えることを推奨して強い兵隊を作ることを目的としていました。

そんな経緯で「健全なる精神は健全なる身体に宿る」は本来のユウェナリスが言っていた意味とは違った言葉となりました。 そして戦後もこの言葉の意味は戻らず、改竄後の意味で広く知られるようになったのです。

どちらの意味が正しい?

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「健全なる精神は健全なる身体に宿る」の意味が変遷した経緯を知ると、この言葉をどう使えば良いのか迷ってしまいますね。 中にはこの言葉を辞書に載っている意味として使うと「誤用だ」と指摘してくる方もいます。

しかしこの言葉に限らず、言葉の意味・ニュアンス・用途は時代と共に移り変わっていくものです。 過去にどういった意味で作られた・使われていた言葉なのかはそれほど重要ではありません。

広く使われている・その場に合っている・最新の辞書に載っているなどから判断して使いましょう。 まあ現時点では「肉体を鍛えよう」という意味で使った方が正しい気がしますね。

年長者の方は自分が使っていた言葉の意味が移り変わるのを「言葉の乱れ」として否定しがちですが、環境・文化・時代・認識が変われば言葉も変わって当然なのです。 適宜最新の内容にアップデートしていきましょう。

現在は人々の心身に関する認識も大分変わって来たので、いつかこの言葉もユウェリナスが言った本来の意味に戻る日が来るかもしれませんね。

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