古代エジプトでは犬や猫のミイラも作られていた
エジプトといえば思いつくのはピラミッドにスフィンクス、そしてミイラです。 ミイラの包帯にグルグル巻きにされた姿はとても印象的ですよね。
そのミイラ、実は人のミイラだけではありません。 犬・猫・魚なんかもミイラにされていたんですよ。
ミイラが作られていた理由
ミイラをよく見かけるのはホラー映画やゲームが多いせいか、まるでモンスターであるかのような印象があります。 しかしミイラが作られる目的は、当然ながらモンスターを作るためではありません。 ミイラは冥界から復活した時の魂の器です。
通常の死体はやがて土に還りますが、乾燥した場所では自然に干からびて残り続けることがあります。 古代エジプト人はこの天然ミイラの永遠性にインスピレーションを受け、それがエジプト神話やミイラ信仰に繋がったと思われます。
オシリスとイシスの神話
ミイラ信仰の元になったと言われるのが、オシリスとイシスの神話です。
オシリスとイシスの神話
王オシリスは王位を狙う弟のセトによって謀殺され、棺をナイル川に流されてしまいました。 妹イシスは何とか棺を回収してきましたが、それを知ったセトはオシリスの遺体をバラバラにしてエジプト中に隠してしまいます。
イシスは遺体の断片を集めて繋ぎ合わせ、アヌビス神などの神々の助けを借りてオシリスを甦らせました。 しかし男根を魚に食べられて不完全だったオシリスは現世に留まることができず、冥界の王として甦りました。
古代エジプト人には神話を根底にした復活信仰があり、そのため復活した時の体を保存しておく必要がありました。 そこで最初のミイラであるオシリス神の神話に倣って死後の体をミイラにして保存し、復活に備えていた訳です。
ミイラにされたのは人間だけではなく、アヌビスの化身のイヌ、バステトの化身ネコなどもミイラにされました。 また神への供え物としても作られており、魚のミイラなんてのもあります。
5億体も作られたミイラ
かつては現世への復活は権力者の特権であったため、貴人のミイラのみが作られていました。 しかしいつまで経っても偉大な王たちが復活してくることはありませんでした。
そのため復活信仰は求心力を失い、死者は現世に復活するのではなく、死者の楽園で生きるという思想に変わります。 そこに身分の貴賤はなかったことから、ミイラ作りは庶民の間にも広がるようになりました。
そうしてエジプトでは総数5億体とも言われる大量のミイラが作られることになりました。 この大量のミイラは率直に言って邪魔であり、ミイラは様々な用途に使われるようになります。
ミイラの使い道
インテリア
上質なミイラはインテリアや見世物として使われ、観光の客寄せに利用したり、美術館や部屋に飾られたりしました。 こんなものを部屋に置くのは私は嫌ですが、どこの世界にも物好きはいるものです。
不老長寿の薬
ミイラの永遠性から連想されたのか、不老長寿の薬として珍重されたこともありました。 しかしこんなもの体に良いはずがなく、飲んで体長を崩したり、悪くすると死んでしまうこともあったようです。
肥料
粗悪なものや保存状態が悪いものは肥料として土に埋められました。 ミイラを栄養にして育った植物は何か気持ち悪い気もしますが、これが自然なことなのかもしれません。
絵具
ミイラは絵具としても使われていました。 茶色っぽい色である「ミイラ色(マミーブラウン)」があったのは有名な話です。
数を減らしたミイラ
こうしてミイラは色々な用途に使われるうちに、段々と数を減らしていきました。 安価に供給されなくなったため、今では肥料や絵具にされることはなくなりました。
こうなってしまっては古代エジプト人が冥界から甦っても現世には留まれませんね。