殺人リレー(夢野久作)のあらすじ

殺人リレーは1936年に発表された夢野久作の怪奇小説です。 登場する少女に訪れる地獄を描いた短編集「少女地獄」に掲載されている話のひとつです。

女車掌のトミ子はバスの女車掌として報われない日々を過ごしていました。 そんなある日、バスの女車掌と関係を持っては殺しているという噂の新高が入社してきます。

第一の手紙

山下智恵子様
友成トミ子より

女車掌になりたいというあなたの気持ちは分かりました。 確かにお百姓はつまらないですが、バスの女車掌にだけはなってはいけません。

女車掌は上の言うことを聞かないとクビになるしお客さんには絡まれる。 スピードが出る度に事故でメチャクチャになればいいなんて考えさせられる商売よ。

それにもっと恐ろしいことがあるのよ。 同封した艶子さんの手紙の写しを読んでちょうだい。

艶子の手紙

突然ですが、私はある人に殺される気がするのです。

私の会社に新高という運転手が来ました。 冷たい顔をして背が高く、運転が上手でよく働く人です。

新高は来て3か月目に私との結婚を申し込み、男らしい人だと思ってすぐに承諾しました。 そうしたら親友から驚きの手紙が来たのです。

親友の会社で新高が女車掌と内縁を結んでは殺していると噂になって、警視庁の監視の目が強くなり会社を辞めたというのです。 田舎のバス会社に落ち伸びたのだろうから、もしあなたの会社に来たらご用心くださいと。

新高さんに手紙を見せると青い顔をして手紙を焼き「これを喋ったら承知しない」と恐ろしい顔で言いました。 私は殺される予感を感じ、そして新高さんになら殺されても良い気がしたのです。

この事は誰にも言わないつもりですけど、トミ子さんだけには書いておきます。

艶子さんはこれから一週間もたたないうちに、新高と同乗していた仕事中の事故で死んじゃったのよ。 会社の見舞い金は葬式代にもならないそうで、私もつくづく嫌になったわ。

くれぐれも女車掌なんて止してちょうだい。

第二の手紙

智恵子さん、大変よ。 この前お手紙に書いた運転手の新高がうちの会社に就職したの。 そして私にプロポーズしたのよ。

艶子さんの仇と思ってジロジロ見ていたら、何か勘違いして私を口説いてきたの。 私もすっかり新高さんが好きになっちゃったけど、それと同時にどうにかして艶子さんの仇を取ってやりたいのよ。

私の言うことは矛盾してるけど、空っぽの胸は生き生きした幸福で一杯になったように思ったわ。 無茶かもしれないけど私はこの冒険に向かって邁進するわ。

第三の手紙

女なんて弱いものね。 新高さんにすっかり征服されて、私の冒険心は弱って来たらしいの。

新高さんは将来のことやまだ見ぬ赤ん坊のことばかり話して、それを聞いていると新高さんとの生活が灰色に続いているのが見えてきたの。 新高さんを殺す気はすっかりなくなって、大切な艶子さんの手紙を焼こうと思ったぐらいよ。

新高さんと出会った時のはち切れるような希望はどこへ行ったのでしょう。 人生なんてこんなものかも知れないわ。

第四の手紙

あたし近いうちに殺されそうなの。

新高さんが艶子さんの手紙を見つけたみたいで、何だかよそよそしくなったの。 そのくせ俺たちは幸福だって急に言い出して、何かあったと思わずにいられないのよ。

それから昨日、新高さんに殺されそうになったの。 満員になったから後部の荷物デッキに移動したのだけど、対向車が来たところで急にスピードを上げてハンドルを切ったの。

私がいつものステップに立っていたら振り落とされて死んだに違いないわ。 私ぞっとして、その時に新高が艶子さんの手紙を見たことを察したのよ。

家でお酒を飲む間はにらみ合いみたいになって、いつも無口な新高さんだけど余計に何も言えないみたいだったわ。 そして寝る前に急に冗談を言い出して腹を抱えて笑ったけど、朝になったら何もかも空っぽになった気がしたの。

今日は仕事を休んで外を見ているけど、悲しい気持ちになってくるわ。 たった今、艶子さんの手紙を焼いたばかりなの。何もかも運命に任せるしかないわ。

第五の手紙

智恵子さんありがとう。 私が昏睡してる間にお見舞いに来て下すったんですってね。 起きられるようになって少しずつ事故のことを思い出してきたわ。

ひどい荒天で一人のお客もない晩、新高さんとバスに乗ってたの。 踏切の前で列車の灯かりが近づくのが見えたのに、私は平気で「汽車オーライ」って叫んだのよ。

なぜそんな恐ろしい嘘をついたのか分からないけど、憂鬱になって新高さんと一緒に死んだ方が良い気持ちになったのでしょう。 バスは踏切の途中ではねられて堤の下へ落ちたわ。

新高さんは列車の車掌さんが駆け付けたら「艶子の恨みだ…艶子だ、艶子だ」と言ってこと切れたって話よ。 私に仇を取られたと分かって死んだと思ったらにっこりしちゃったわ。

事故を調べに来た人には、私はストップと言ったのに新高さんが突っ切ったと言ったら皆納得したわ。 刑事が「夫婦心中じゃないか」と言ったけど、頑なに否定したら納得したようよ。

それから新高さんが連続女車掌殺しの嫌疑者と分かって、新聞に「恐るべき色魔の殺人リレー」って記事が出たわ。 今度も自分だけ助かるつもりだったが失敗したって書いてたけどあれは嘘よ。

やけくそで死ぬつもりだったのに、私を助けて下さった神様には感謝してるわ。 怪我が治ったらまた女車掌になって、そして日本一の運転手になるわ。

これからどんなことがあっても女車掌になっちゃダメよ。 私みたいな女になっちゃダメよ。

第六の手紙

智恵子さん、最後のお手紙を上げますわ。 あたしこの後、どこかへ行って自殺しますの。

今やっと刑事の言葉が真実だったと分かりました。 私は新高さんと夫婦心中をして、できるなら自分だけ生き残りたかったのです。だから本当は夫殺しだったのです。

新高さんは艶子さんの怨念に殺されたと思って死んで、私の仕業とは夢にも思わないままだったのでしょう。 新高さんはやはり私を愛していたと気付き、もういても立ってもいられません。

それにお腹に赤ちゃんが出来ていたのです。私と一緒に呪われたこの子も殺してしまいます。 私は夫殺しの子殺しです。

女車掌なんかになってはいけません。さようなら。

感想

トミ子は新高が危険な男だと分かっているにもかかわらず、強く惹かれていきます。 これは救われない毎日を送り「事故でメチャクチャになればいい」と考えるトミ子にとって、死はむしろ救いとなるからかもしれません。

今まで新高に殺された女車掌たちもトミ子と同様に救われない日々を送っていて、それ故に危険な新高に惹かれ殺されていったのだと思われます。 だから新高が死んだ後も「女車掌なんかになってはいけません」と忠告し続けたのでしょうね。

そんなトミ子に新高が将来の話をすると、トミ子の希望が消えて将来が灰色に見たのが印象的です。 これは新高との恋が破滅願望に起因したから故でしょう。

やがてトミ子は仇討ちのような心中のような夫殺しをしますが、この時のトミ子の心理は難しいですね。 トミ子の願い通りの結末になったはずですが、しかしトミ子はお腹の子と共に自殺する気でいます。

新高が期待していた破滅をもたらさなかったので自分で破滅させ、そして死ぬ前に新高の想いを確認したかった…ということなのでしょうか。

B!

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