名言「天は人の上に人を作らず」は福沢諭吉の言葉ではない
「天は人の上に人を作らず」という名言があります。 人間は皆平等であり差別してはいけないという意味で、福沢諭吉が著書「学問のすすめ」に書いた言葉として有名です。
ただ時々勘違いしている人がいますが、この名言は諭吉自身のものではありません。 学問のすすめにおいては「世間ではこう言われている」と取り上げただけなんですね。
「天は人の上に人を作らず」は世間で言われていたこと
学問のすすめの冒頭は以下のように始まっています。
「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」と言えり。
つまり諭吉は「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと言われています」と書いただけです。 なのでこの名言は諭吉自身のものではありません。一説によるとアメリカの独立宣言をモデルにしていると言われていますが、出所がどこかは些細な問題でしょう。
それでは諭吉自身はどのように考えていたのかと言えば、人の権利は平等だが人の在り様(身分や貧富の差、職能や役割の違い、力や頭脳の優劣など)の差は当たり前に出来るものとして受けとめており、またその差は学問をしたかどうかによって生まれると言っています。
「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」のイメージから諭吉の事を平等主義者や社会主義者のように勘違いして捉えている人がいますが、諭吉は実力主義者であると言えます。 人が平等なのはあくまで生まれ持った権利だけで、立場や貧富の差を利用して弱者を虐げてはならないとしつつも、立場や貧富に差ができるのは当然と考えていた訳です。
これは大よそ現代の常識そのままであると言えます。 今更ありがたがるほどの話でもないと思うかもしれませんが、江戸時代の封建社会的な風潮が色濃く残っていた明治初期においてはとても先進的な考えでした。 時代背景を考慮すると、もう少し別の評価ができるのかもしれません。
福沢諭吉が学問のすすめに託した願い
学問のすすめは福沢諭吉の代表的な著書で、読んだ事はないけど名前は聞いたことがあるという人は多いと思います。 そんな学問のすすめは一体どんな本なのかと言えば、題名そのままで学問の重要性を訴え学問を勧めるビジネス書兼自己啓発書です。
書かれている内容は現代基準で考えると当たり前のように感じる事も多く、率直に言ってそう大した事が書かれている訳ではありません。 しかし学問のすすめが書かれたのが明治初期であることを考えると、福沢諭吉がいかに先進的な考えをしていたのかが分かります。
江戸時代以前の日本は封建社会であり、庶民はよく言えば従順、悪く言えば人任せな性格をしていました。 これは封建社会に適応した国民性と言えますが、このような状態は身分・伝統・慣習が過分に重視され、実力による階層移動が起きにくく、文明の発展は停滞します。
福沢諭吉の父親である百助は下級武士の生まれで、学問に秀でており儒学者でもありましたが出自が低いために要職には就けず大成できないまま死にました。 こんな実力のある人が取り立てられない社会では頑張っても適正な評価はされないのでやる気が出ませんよね。 諭吉はこのような封建社会に疑問を感じており「封建制度は親の敵で御座る」とまで言っていました。
鎖国して牧歌的に国家を運営していた分にはこれでも問題なかったのですが、欧米列強から突かれ開国を迫られると事情が変わります。 日本が停滞している間に諸外国は発展し、すっかり世界から取り残されていたのです。
封建社会は明治維新によって終わりましたが、そう簡単に国民性が変わる訳ではありません。 そんな状況をこのままではイカンと考えた福沢諭吉が書いたのが学問のすすめです。 元々は故郷の中津に学校を開設するために学問の必要性を記したものでしたが、友人にこれを広く世に訴えるべきだと言われて出版される運びになりました。
学問のすすめは他人任せで牧歌的で学問とは無縁だった日本人に学問の必要性と国民一人一人が独立することの重要性を訴えたものです。 その売れ行きは大変なものであり、人口3000万人だった明治時代に300万部以上もの売上を記録しました。 その後に日本が空前の発展を遂げられたのも、学問のすすめに触発された面が少なからずあるかもしれません。
その内容は現代においても色褪せず…とまでは言いませんが、とても良いことが書いてあります。 是非一度は読んで貰いたい一冊です。
あらすじは以下のリンクにまとめていますのでサクッと読みたい方はどうぞ。 もちろん本を読んで貰うのが一番良いのですが、あれ結構長くて読むの大変なんですよね…