動画投稿者が収益化して引退する理由「アンダーマイニング効果」
あなたが見ていた動画投稿者に、長いこと趣味でやっていたのに収益化を機にほどなくして引退してしまったなんて人はいないでしょうか。
傍目に見ると収益化と引退に何の関係もないように見えますが、それが引退の原因だった可能性はあります。 その理由「アンダーマイニング効果」についてお話します。
動画投稿者の収益化に学ぶアンダーマイニング効果
A氏は趣味でゲームの実況動画をアップロードしている中堅実況者です。 ある日ファンから「再生数から見て収益化すれば、月に1~2万の稼ぎになる」と言われました。
A氏が動画投稿にかける時間は月100時間で、仕事として見れば割に合いません。 しかし元々趣味でやっていたことでお金を貰えるのだから悪い話ではありません。
そうしてA氏は動画を収益化し、しばらくは今まで通り動画を上げていました。 貰えたお金も想定通りだったようです。
順調に見えたA氏でしたが、やがて動画を上げる頻度が減ってきました。 心なしか動画から聞こえる声も、熱を失ってしまったような気がします。
そうしているうちに動画を上げる頻度はどんどん減り、やがてA氏はゲーム実況者を引退してしまいました。 一体A氏に何が起きたのでしょうか?
A氏の転機は収益化
A氏は私が見ていたゲーム実況者をモデルケースにしていますが、こんな流れで引退していく実況者は珍しくありません。 転機はやはり「動画の収益化」にあったように見えます。
今まで通りやってお金が貰える収益化によってやる気を失うのはおかしな話ですよね。 しかしこの収益化こそがA氏のやる気を削だ可能性が高いのです。
アンダーマイニング効果
A氏は元々は「好きで」動画を上げていました。 しかし報酬が設定されて時が経つにつれて、いつしか「報酬目当て」で動画を上げるようになってしまったのです。
このように好き(内発的動機)でやっていたことに報酬(外発的動機)が設定されると、動機がすり替わる場合があります。 元々は無報酬で一日中できたことが、報酬なしにはできなくなってしまうのです。
動機が完全にすり替わった時、A氏の貰う報酬は作業に対して割に合わないものでした。 そうしてやる気を失い、引退してしまった訳です。
このように内発的動機に外発的動機を設定することで動機がすり替わり、モチベーションが下がることを「アンダーマイニング効果」と言います。
安い報酬設定はやる気を削ぐ
無償の奉仕に良かれと思って報酬を設定するのが、必ずしも良い結果を招くとは限りません。 特に報酬が不当に設定されている場合、アンダーマイニング効果でやる気を削いでしまう恐れがあります。
やる気を出してもらうためにはどうすれば良いか、モチベーション理論を見てみましょう。
モチベーション理論
モチベーションには外側からの刺激や報酬のために行う「外発的動機」と、自分の欲求や満足感を得るために行う「内発的動機」の二種類があります。
実際のモチベーションは内外の動機が入り混じったものですが、これらを分けて認識することでモチベーションを深く理解できます。
外発的動機
外発的動機とは、外側から刺激によるモチベーションです。 お金のためにやっている仕事、親から強要されている勉強などが当たります。 本来はやりたくないけど、何らかの事情でやらなければならないのが動機になっている訳です。
外発的動機は長続きしないので、続けさせるには継続的に刺激を与え続ける必要があります。 給料を払うのを止めれば働くのを止めますし、勉強しろと言うのを止めれば勉強を止めます。
内発的動機
内発的動機とは、心から湧き上がる感情によるモチベーションです。 満足感や充実感が得られるから、楽しいから、負けたくないからなどの自らの欲求がモチベーションとなります。
内発的動機は質の高い行動が長続きします。 何も言わなくても自発的に取り組みを続け、無報酬で一日中やっていることも珍しくありません。
モチベーションを向上させるには
やらされていることが長続きしない理由は、外発的動機の脆弱性にあります。 本来やりたくない事なんだから、やる理由がなくなればそりゃ止めますよね。
モチベーション理論的には、外発的動機よりも内発的動機で取り組ませるべきです。 やりたくもない事で内発的動機を喚起するのは簡単ではありませんが、少なくとも「やれ」と命令するよりはずっと建設的です。
以下の手法で内発的動機を高めることを意識しましょう。
内発的動機を高める環境を整える
内発的動機は「有能性(認められる)」「自立性(思い通りにできる)」「関係性(関心を持たれる)」によって喚起されます。 質の高いモチベーションを維持できるかは、如何にこの三点が保てる状況を維持できるかに左右されます。
この三点が整う環境から作ることを意識すると良いでしょう。
エンハンシング効果
内発的動機を喚起する方法に、外発的動機付けにより内発的動機を高める手法があります。 あまり乗り気でないことをやった際に、その行動を称賛することで内発的動機を喚起するのです。 これを「エンハンシング効果」と言います。
エンハンシング効果の注意点として、賞賛するのは能力や結果ではなく努力した行為自体であること、賞賛は報酬ではなく言葉であることが挙げられます。 一歩間違えるとアンダーマイニング効果になりかねないので注意しましょう。
前述のA氏の場合でしたら、失ったやる気を喚起させるためにまず外発的動機付け(報酬を大幅に引き上げる)し、外発的動機が続いているうちに内発的動機が喚起される環境を整え、並行してエンハンシング効果により内発的動機を育てるというのが一つの答えになるでしょうか。
まとめ
モチベーションには外部からの圧力である「外発的動機」と、自分の欲求である「内発的動機」があります。 そして外発的動機よりも内発的動機の方が良い結果をもたらします。
内発的動機は「やりたいこと」「やるべきこと」「できること」が重なっているほどに向上します。 ただやる気が上下する要因は他にも色々とあり個人差も大きいです。
どうすれば自分ないし他人のやる気が上がるのかを分析し、やる気を高める手法を確立させておきましょう。 モチベーション理論はその一助となるはずです。