煮干し・鰹節・昆布が海の中で出汁が出ない理由
料理のお出汁で使う代表格と言えば、煮干し・鰹節・昆布です。 味噌汁など日本の汁物には欠かせない存在ですね。
そう言えばそいつらは皆海の生き物ですね。日常的に出汁を出しているから海には味が付いているんでしょうか? いやいや、そんな馬鹿な話はありません。それなら家族みんなが入った後のお風呂は濃厚なスープになっているはずです。
理由は少し違いますが、動物も昆布も生きている間はほとんどうまみ成分を外に出しません。 だから海に出汁は出ていないのです。
昆布が海の中で出汁が出ない理由
昆布の旨み成分はグルタミン酸です。 グルタミン酸はタンパク質構成アミノ酸のひとつで、生きていく中で必要な栄養素です。 なので普段は細胞壁に包まれて流出しないように守られています。
昆布が海の中で死ぬと、グルタミン酸はバクテリアに分解されてしまいます。 出汁に使う昆布はそうならないように、バクテリアの生存できない乾燥状態にして出荷されるのです。
つまり昆布が海の中で出汁が出ないのは、生きているうちは細胞膜に守られているからでした。
煮干しや鰹節が海の中で出汁が出ない理由
煮干し・鰹節・動物肉などの旨み成分はイノシン酸です。 しかしイノシン酸は生きている状態の動物にはほとんど含まれていません。
動物、植物、微生物の筋肉などにはATP(アデノシン三リン酸)とADP(アデノシン二リン酸)いう物質があります。 ATPは呼吸によりADPとリン酸が結合して生成され、ATPをADPに分解した時のエネルギーで生命活動をしています。
しかし死後は呼吸をしなくなるのでATPは分解されても戻らず、ADP→AMP(アデノシン一リン酸)となり、更にその先のIMP(イノシン酸)に分解されます。 このイノシン酸が旨み成分です。
肉や魚を寝かせて旨みを引き出すいわゆる「熟成」は、イノシン酸への分解を待つ工程なのです。
煮干しの原料であるイワシ、鰹節の原料である鰹、豚、牛、鳥などの生き物は、生命活動中はイノシン酸を作りません。 だから海の中で出汁は出ていないのです。
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ちなみにイノシン酸とグルタミン酸には互いの旨みを引き立たせる「旨みの相乗効果」があります。 出汁を取る際には、どちらか一つではなく両方入れることがおいしい料理の秘訣です。