アホとバカの由来と使い分け
「アホ」と「バカ」愚か者や愚かな行為を表す言葉の代表格です。 子どもでも知っている言葉ですが、実は奥が深かったりします。
そんなアホとバカについて、由来から使い分けまで色々とお話したいと思います。 なお由来については諸説ありますが、ここでは中国の歴史書「史記」説をご紹介します。
アホの由来
紀元前211年、秦王朝は広大な中国大陸を史上初めて統一します。 秦の王様は「始皇帝」を名乗り、絶大な権力で様々な改革や事業を行いました。
そんな事業のひとつが70万人を動員して作った巨大な宮殿「阿房宮(あぼうきゅう)」です。 これは始皇帝の奥さんたちを住まわせる後宮であり、そこには二千人もの美女たちが住んでいました。
しかし秦による支配は長くは続きませんでした。 阿房宮、万里の長城、始皇帝陵に代表される数々の巨大事業は人々に重い負担がかかり、また思想弾圧や従来文化の否定も人々の不満を募らせました。
紀元前210年の始皇帝の病死を契機に各地で反乱が盛んになり、紀元前206年に反乱軍によって秦は滅ぼされてしまいます。 その折に建設途中だった阿房宮は燃やされてしまいました。
しかし阿房宮はあまりに巨大だったため、燃え尽きるまでに三か月もかかったそうです。 人々は無駄に巨大な阿房宮に呆れ果て、やがて愚かな人や愚かな行為を「阿房」と呼ぶようになりました。
その「阿房」が変化して現代の「アホ」になったという訳です。
バカの由来
紀元前210年、始皇帝が死んだ後を継いだのは始皇帝の末子・胡亥でした。 普通は長男が後継ぎとなるはずですが、胡亥の守り役である趙高の策略によって事が運ばれたのです。
胡亥の信任を得た趙高は、胡亥に贅沢三昧の生活をさせて宮殿に閉じ込め、自身は宮廷で実権を握ります。 他の有力者や自分に逆らう者に言い掛かりを付けて殺し、宮廷は荒れに荒れました。
やがて秦の圧政に反発する人々が各地で反乱を起こしましたが、趙高は「奴らは野党の集まりで何もできはしない」と言って胡亥のご機嫌を取っていました。 しかし反乱軍の勢いは予想以上で首都にまで迫り、皇帝を誤魔化すのにも限界がきました。
趙高はもし皇帝が真実を知れば自分は処刑されてしまうと考え、皇帝暗殺を企てます。 そこでまず趙高は他の臣下たちを従わせることにしました。
趙高は皇帝に「馬です」と言って鹿を献上しました。 皇帝は「これは馬ではなく鹿だろう?」と臣下たちに問うと、ある者は沈黙し、ある者は「馬」と言い、ある者は正直に「鹿」と答えました。
ここで多くの臣下が正直に言わなかったのは、趙高に逆らうと殺されてしまうからです。 趙高は正直に「鹿」と答えた者に言い掛かりを付けて皆殺しにし、家臣を恐怖で従わせて謀反を成功させます。
この出来事から、無茶苦茶なことなのに権力でむりやり従わせることを「指鹿為馬(鹿を指して馬となす)」と言うようになりました。 これが「馬鹿」の由来と言われており、元は狼藉者を指す意味が強い言葉でした。
ちなみにこの後、趙高は傀儡として即位させた三代目に刺されて殺されます。 そして三代目もほどなく反乱軍に殺され、秦王朝は滅んでしまうのでした。
アホとバカの使い分け
アホとバカは元々の意味は違いましたが、現代においてはどちらも「愚かな人・愚かな行為」の意として使われています。 しかし全く同じ意味の言葉という訳ではありません。
「アホ」の意味はこれだけですが、「バカ」には他にも色々な意味があるからです。 「やたら・とても(馬鹿でかい、馬鹿速い)」「不器用で一途(馬鹿正直、空手馬鹿)」「機能が失われる(疲れて頭が馬鹿になる、ネジが馬鹿になる)」などですね。
バカの方が広い用途に使われる分、意味に含みと幅があるのです。 以下はほとんど同じ文脈に「バカ」と「アホ」をはめ込んだですが、含まれる意味が変わっていますね。
複雑なバカ
また彼女に浮気されたよ…これでもう四回目だ。
さっさと別れれば良いのに、バカだね。(愚かさを指摘しつつも、情の深さや一途さを褒めるニュアンスが含まれる)
単純なアホ
また彼女に浮気されたよ…これでもう四回目だ。
さっさと別れればええやんけ、アホか。(単純に愚かさを指摘している)
このように「バカ」は色々な意味を持つ分、言葉通りには飲み込みにくくなっているのです。 良くも悪くも「バカは複雑」「アホは単純」と言えるでしょう。
ただしどちらがキツい意味合いを持つかは別の話ですし、地域性による差もあります。 単純にどちらを使えば良いという話ではありません。
アホとバカの地域性
アホとバカには以下のような地域性があります。
地域 | 軽い | 重い |
---|---|---|
関東 | バカ | アホ |
関西 | アホ | バカ |
関東人は「バカな人」「バカじゃん」など、割とフランクにバカを使います。 しかし「アホ」はあまり使わず、言うと場の空気が凍ります。
関西人は「アホなヤツ」「アホしよる」など、毎日アホアホ言っています。 しかし「バカ」はあまり使わず、言うと争いに発展します。
このようにアホとバカには地域性があるのです。 あなたがホームから離れた地でこれらの言葉を使う際には、まず周りがどちらを使っているかをよく観察した方が良いでしょう。
うっかり逆を使ってしまうと、取り返しの付かない事態になってしまうかもしれないのですから…