自分たちの方が優れていると錯覚する心理「内集団バイアス」

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人は様々な集団に属しています。 学校や企業、クラスや部署、部活やサークル、国や地域、宗教や思想、年齢や性別、職業や趣味など、あなたも何かしらの集団に属していることでしょう。

人は「自分の集団(内集団)は優れ、他の集団(外集団)は劣っている」と錯覚する心理を持っています。 これを内集団バイアスと言います。

身内を贔屓し他人を排斥する心理「内集団バイアス」

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内集団バイアスとは

自分が所属を抱いている集団を「内集団」、そうではない集団を「外集団」と言います。 内集団は所属集団とは少し違い、自分がその集団の構成員であるという自覚を持っている集団です。

例えばお金稼ぎのために適当にやっているバイトは、所属集団ではありますが内集団ではありません。 例えばアイドルに憧れて自分もその一員である妄想に耽っているのは、所属集団ではありませんが内集団になることもあります。

そして人は「内集団は優れ、外集団は劣っている」と錯覚する「内集団バイアス」という心理傾向を持っています。 これは内集団に対しての好意的な行動と、外集団に対しての差別的な行動に繋がります。

人は知らず知らずのうちに、身内を贔屓してよそ者を排斥する精神構造になっている訳です。

内集団バイアスの例

内集団バイアスの身近な例は男女ですかね。 誰しも同性を持ち上げ異性をこき下ろす意見を見聞きしたことはあると思います。

男性が「女は感情的だ」と言ったり、女性が「男はガサツ」と言ったり、異性をこき下ろす発言をしている姿をよく見ます。 もしかしたら貴方もそういった意見をお持ちかもしれません。

内集団バイアスが起きる理由

内集団バイアスによる錯覚は、内集団の評価は「内集団の優れた人間や実績」を基準に行い、外集団の評価は「外集団の劣った人間や実績を基準」に行うことによって起きます。

公平に分析するのなら集団間を長所・短所・平均・中央など同じ部分で比較すべき所を、内集団の長所と外集団の短所で比較してしまうのです。 そりゃあ内集団の方が優秀に見えますよね。

SNSで対立している集団を見てみると分かりやすいですかね。 お互いに相手集団の中で際立ってバカな意見を吊るし上げて「アイツらはこんなにバカだ」と主張しています。 全体で見ればどっちもどっちなのに、集団の構成員は「アイツらはバカで自分たちは賢い」と錯覚している訳です。

これは内集団の格を高めることで間接的に自分の格を高め自尊心を得ようとする心理が働いているためと考えられています。 「優れた集団に属している自分は優れており、劣った集団に属しているアイツは劣っている」→「自分はアイツより優れている」と、手軽に自尊心を満たせます。

目的が自尊心を満たすことなので、あまり深くは考えないし見たくないものを見ようとはしません。 だからこそ余計に内集団バイアスに陥ってしまう訳です。

内集団バイアスのメリットとデメリット

内集団バイアスは集団を結束し繁栄させる点において有利に働きます。 バイアスのおかげで構成員は集団から離れにくく、身内贔屓な意見は外部から魅力的に見えて新たな構成員の流入を促します。 そして集団が大きくなり繁栄すれば、それは構成員の利益にも繋がります。

現代においても国・企業・寄合・部活・宗教・はてはテロリストまで、この心理を利用して集団の結束を高めようとしています。 内集団バイアスは錯覚であっても、このバイアスを取り除いて立ち振る舞うことが良いかは別の問題なので注意しましょう。

しかし内集団バイアスは集団を超えて物事を公平に捉えるという点で不利に働きます。 行き過ぎた身内贔屓は選民思想に繋がり、他集団との摩擦が増え、また集団を超えた最適である「全体最適」の妨げになります。

例えば学校の部活や会社の部署などで予算の取り合いをしますが、どの集団も自分の所に少しでも多くの予算を持っていこうとしますよね。 その審議にて如何に自集団が優れているか、他集団が劣っているかをプレゼンすることも少なくありません。

そうして自分の集団により多くの予算を引っ張ってくるのは、内集団(部活や部署)を繁栄させるという点では最適かもしれません。 しかし学校や会社などの集団を超えた視点で考えた場合、それが必ずしも最適という訳ではないのです。 政治力によって歪な予算が組まれると全体が力を失い、やがて自集団まで衰退することも考えられます。

内集団バイアスの危険性

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内集団バイアスの矛先は時に内集団に向くこともあります。 集団の優れた構成員を持ち上げ、劣った構成員を排斥して集団の優位性を保とうとするのです。 これを「黒い羊効果」と言います。

東京五輪エンブレム騒動事件を例に挙げます。 事件は「東京五輪のエンブレムに当初デザイナーの佐野研二郎氏のものを採用する予定だったが、デザインの盗用が発覚して採用が取り下げられた」という事件です。

この事件の際「佐野氏は本名・朴尊簸という在日朝鮮人である」というデマが広範囲に広がりました。 このデマが広がった一因に、黒い羊効果による劣った人員の排斥が挙げられます。

日本人という内集団に属している人々にとって、集団の構成員が犯罪者となるのは好ましくないことです。 それは日本人の品位の低下に繋がり、ひいては自分自身の品位の低下に繋がります。

なので「佐野氏は日本人ではない」と集団から排斥して集団の優位性を保とうとしたのです。 この類の根拠なく在日外国人のせいにする書き込みは、SNSを眺めていれば本件に限らず頻繁に目にできます。

MEMO

2015年警察統計によると日本の犯罪の96%は日本人が犯人です。

これが行き過ぎると内集団の結束にも支障をきたします。 無理筋の意見が構成員にバイアスを超えて異常を感じさせる、少しでも失敗すると過剰に追い込まれる、互いを監視し合って隙あらば追い落とそうとするなど、組織として活動することが難しい状態に陥ります。

こうなると集団から構成員が抜ける、外集団から異常さが浮き彫りになるなどして、徐々に集団が縮小・先鋭化して社会から浮いた存在となっていく訳です。 行き過ぎた内集団バイアスは逆効果しかないので気を付けましょう。

自己評価が低いほど内集団バイアスにかかりやすい

精神科医クリストフ・アンドレとフランソワ・ルロールの行った実験で「自尊心の低い人ほどに内集団バイアスにかかりやすい」という結果が得られています。

自尊心を得にくい状況にある人にとって手軽に自尊心を得られる手段は魅力的です。 なので「優秀な集団の一員としての自分」というアイデンティティを確立して自尊心を満たそうとする訳です。

「集団の一員としての自分」としてのアイデンティティしかないと、その集団の崩壊が自分のアイデンティティの崩壊に繋がってしまいます。 そのため集団を乱すものに対して過剰に反応してしまいがちになります。

しかし前述したように行き過ぎた行動は逆に集団の崩壊に繋がりかねません。 最初はこういったものに縋っても、なるべく早く自分の足で立てるようにしなくてはなりません。

まとめ

内集団バイアスは上手く使えば決して悪いものではありません。 構成員は集団に属していることに誇りを感じ、それが集団の結束や繁栄に繋がり、ひいては構成員自身の利益に繋がります。 集団と構成員がwin-winの関係になれば、集団はより大きく発展して構成員は幸せになれるでしょう。

しかしこれが行き過ぎると外集団との摩擦や集団の崩壊に繋がります。 内集団バイアスを利用した例にナチスドイツがよく挙げられますが、彼らは崩壊し異常者として歴史に名を遺すこととなりました。 他にも内集団バイアスの暴走が崩壊の一因となったと考えられる団体はいくつも挙げられます。

貴方が組織運営を考える時や組織の一員として行動する時には、内集団バイアスと上手く付き合うことを心がけましょう。

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