だしの取り方(北大路魯山人)のあらすじ
北大路魯山人は陶芸家・書道家・美食家などなど多芸に秀でた人として知られています。 美をとことん追求した人物であり、芸術や美食に関する随筆を多く遺しました。
だしの取り方はそんな北大路魯山人のだしの取り方です。 言ってしまえばただの料理本ですが、北大路魯山人ならではの美食へのこだわりを見てみましょう。
かつおだし
良いかつお節は、かつお節を叩き合わせると拍子木のようにカンカンと鳴るもので、ポトポトと湿っぽいのは悪いかつおぶしです。 本節は見た目は堂々としていますが大味なので、亀節の方が良いです。
削ったかつお節は上質な雁皮紙(※高級な薄い和紙)のように薄く、ガラスのように光沢がなければなりません。 切れ味の悪い錆びたカンナで削っては良いだしが出ないので、良いカンナを用意しましょう。 カンナの手入れは素人ではうまくできないので、大工や研屋などの本職に研いでもらいましょう。
だしをは煮えたぎる湯へサッと入れた瞬間に十分にだしができます。 いつまでもクタクタ煮ても碌なだしは出ず二番だしのようなものになり、かえって味を損ないます。
かつおぶしは味も栄養も良いし、良いものを選べば世界に類まれなスープができます。 かつおぶしのある日本人はまことに幸せですが、それなのにかつおぶしの知識もなく削り方も知らないのは情けないことです。 その上削る道具もないなんて大いに反省してもらいたいものです。最近は料理屋すら削り節を使っていますが、削り節は削り立てが良いのです。
料理に限らずやるというならどんなことでもやるのが当然です。 良いカンナなしにかつおぶしを削るのは無理に繋がり、無理をすれば味が死ぬので、持っていない人は大工の使用しているカンナの購入をお勧めしたいです。
昆布だし
昆布だしは実に結構なもので、特に魚料理は昆布だしに限ります。
まず昆布を水で濡らして1~2分ほど間をおき、表面がふやけたら水道水をそっとかけながら表面のゴミを落とし、その昆布を熱湯の中へサッと通します。 だしが出たか心配になるかもしれませんが、ちょっと汁を吸えばうま味が出ているのが分かります。どのぐらいの量を入れるかは実習すればすぐ分かります。
湯にサッと通してすぐ上げるのは勿体ない気もしますが、長く煮ると昆布の底の甘味が出るため気の利いた出汁はできません。 京都では引出し昆布という鍋の一方から長い昆布を入れて底をくぐらせて一方から引き上げるやり方もあり、この方法ならどんな食通も唸らせることができます。
感想
あらすじを読んでなんだか説教臭く思ったかもしれませんが、これでも大分マイルドにしています。 美食家であるからこそのこだわりなのでしょうが、近くにいると率直に言って面倒な人ですね。
だしは日本料理には欠かせない存在で、料理に手間をかける人なら毎日とるものです。 上手にだしを使えば料理の味がより高尚なものへと昇華しますが、しかし良いだしを取るのは面倒でもあります。 そのだしにこんなこだわりを持つ夫を持った奥さんの心労は計り知れませんね。
北大路魯山人は傲慢・不遜といった人物評をされ、気難しく周囲との軋轢が絶えない人物でした。 しかし芸術や美への追及は妥協を許さない凄まじいものがあり、人間国宝に指定されたこともあるほどです。(本人が辞退したので人間国宝ではないです)
こんなだしの取り方ひとつからその精神性の一端に触れられるのですから、なんとも凄まじい人物ですよね。
ちなみに魯山人はグルメ漫画「美味しんぼ」の海原雄山のモデルになった人物だったりします。