水やコーヒーにも致死量がある
致死量とは毒のように体に害を与える物質を「これぐらい摂取すると死ぬ」という目安です。 致死量はマウス実験により調査され、どの毒が強力かを比較をする時は致死量がいかに少ないかで判定します。
致死量があるのは毒物のみと思いがちですが、実は普段から飲食しているものにも致死量はあります。 醤油は1リットル飲むと死ぬとはよく言われますが、コーヒーや水にだって致死量があるのです。
「あらゆるものは毒であり、肝心なのは摂取量だ」なんてことも言われますね。 極論ではありますが、あながち的外れなことでもなかったりします。
身近なものの致死量
コーヒーの致死量
忙しい時の味方カフェイン。 碌に睡眠時間が確保できずに眠くてダルい時にも摂取するとすっきり…とまではいきませんがそれなりに覚醒します。
仕事が行き詰まると常飲するようになって1日1ℓ以上飲むことも珍しくありません。 更に生活が崩れるとコーヒーではカフェイン摂取が追いつかなくなり、レッドブルやカフェイン入りの錠剤に頼ることになります。
しかしそんな無茶なカフェインの取り方をしていると死ぬかもしれませんよ。 実際カフェインを取りすぎて死ぬニュースは珍しくはありますが、世界を探せば2~3年に1度は目にします。
カフェインはコーヒー100mlに約40mg含まれ、致死量は5~10g程度と言われています。 コーヒー一杯300mlで計算すると、およそ50杯のコーヒーを飲むと致死量となるでしょうか。 ただしカフェインは体内で分解されるので、短時間に沢山飲まなければなりません。 水分を取ればそれだけ汗や尿からカフェインが排出されるので、コーヒーだけでカフェイン中毒死するのはまず無理です。
しかしレッドブルなどの少ない水分で大量のカフェインが入っている飲料や、錠剤などの無水カフェインなどは短時間で大量のカフェインを摂取できてしまいます。 カフェイン摂取が日常的になると効果が薄くなり、ついつい多めのカフェインを摂取するようになりますが危険な兆候です。 いくら眠くても用法用量を守って適切に使用しましょう。
水の致死量
動物が生きていくのに必須の水ですが、実は水にも致死量があります。 これは毒性の物質ではなく、水分摂取によって血中ナトリウム濃度が下がった際に起きる症状が原因です。 低ナトリウム血症といって疲労感、頭痛、精神錯乱などの症状があり、重くなると痙攣や昏睡が起きて最悪死に至ります。
低ナトリウム血症は5ℓから10ℓの水分を一気に摂取した場合に起きます。 普通はそんな短時間に大量の水分を摂取しないというかできないので、水中毒で死に至るのは滅多に起きることではありません。 しかし水飲み大会の優勝者が水中毒で死亡するなど、普通でない状況下で稀に起きています。
大食い選手の訓練法に大量の水を一気に飲んで胃袋を拡張するものがあるのですが、あれは平気なんでしょうか? 私の見た番組では一気に14リットルの水を飲んで胃袋を膨らませる訓練をしていましたが、あの水分は吸収されずに出てくるんですかね?
海水の致死量
海水を大量に飲むのはいけないとよく言われますが、問題視されているのは海水に含まれる塩分です。 しかし海水に含まれる塩分は約3.5%なので、塩分を致死量摂取するには5~10ℓ飲まなければならず、真水とそう変わりません。 問題は海水を飲むことによって喉が渇き、更なる水分を欲してしまうことです。
我々は血中ナトリウム濃度によって喉が渇いたかどうかを判断しています。 通常は尿や汗などで水分が排出されると血中ナトリウム濃度が上がり、「喉が渇いた」と感じて、体が水分を欲するようになる訳です。
しかし海水のナトリウム濃度は血中のそれよりも高く、飲めば飲むほど血中ナトリウム濃度が上がります。 そのためいくら海水を飲んでも喉の渇きは一向に改善せず、むしろ更なる喉の渇きを招いてしまいます。 そしてまた海水を飲み、更に喉が渇き…と悪循環に陥るのです。
漂流した時に海水を飲んで凌ぐ話がありますが、そういった塩分が不足している状態でコップ1杯程度の海水を飲む分には問題ありません。 ただ飲んでも喉の渇きは解消されないことも覚えておきましょう。
醤油の致死量
醤油は1ℓ飲むと死ぬと言われていますが、これはおおよそその通りです。 醤油に含まれる塩分は海水のおよそ5倍であり、海水の1/5も飲めば死ぬ計算となるので1ℓで危険水準です。
1ℓなら水分として飲めてしまう量です。 間違っても醤油を大量に飲むような真似は止めましょう。
代表的な毒物の致死量
一般的に致死量という言葉は毒物に対して使われます。 強力なものは数mg取っただけで死に至り、誤って少し摂取してしまっただけで死ぬ危険があります。 よく聞く毒物がどの程度の致死量なのかを見てみましょう。
ミステリー小説の代表格である青酸カリウムの致死量は150~300mgです。 1円玉の半分にも満たない重さで人が死んでしまうので、その毒性は推して知るべきですね。
一般的な毒の代表格であるフグ毒「テトロドトキシン」は1~2mgが致死量で、青酸カリの数百倍もの毒性を持っています。 フグの肝10gに人が死ねるテトロドトキシンが含まれており、肝1つには数十人が死ぬだけの毒性を持っています。 中には皮や身に毒があるフグもいて、昔から多くの人がフグを食べることによって死んできました。
毒素型の食中毒菌は体内で毒を生成し、中でもボツリヌス菌のものは最強の天然毒と言われています。 ボツリヌス菌が生成するボツリヌストキシンの致死量は体重1kgに対し1μgが致死量とされています。 仮に体重が60kgの場合、0.06mg摂取すると死んでしまうほど強力な毒なのです。 テトロドトキシンと比べても遥かに強力な毒ですね。
幸いボツリヌス菌もボツリヌストキシンも熱で分解されるので、よく火を通せば安全です。 ただ食中毒菌やその毒素の中では熱が平気なものもいるので、一概に食中毒菌全てが熱を通せば大丈夫という訳ではありませんけどね。
水やコーヒーはこれらの強力な毒のようにちょっと摂取すれば死ぬ類のものではありません。 しかし何事もほどほどが一番です。「あらゆるものは毒であり、肝心なのは摂取量」ということを肝に銘じておきましょう。 「デブは万病の元」なんて言いますしね。