アリは成層圏から落ちても衝撃で死なない
人間は高い所から落ちると痛い目に合います。 ほんの3mから落ちても足に響きますし、10mもの高さから飛び降りたなら命の危険もあります。
しかしその一方でネコやアリは高いところから落ちても割と平気です。 ネコは人間の背よりも高い塀の上から平気で飛び降りますし、アリは人間の頭の高さから落としてもすぐに動き出します。
これは人間の大きさで換算すれば、10mよりも遥かに高い場所から降りている計算になります。 なぜこんな高所から飛び降りて平気なのかを掘り下げてみましょう。
ネコが高い場所から落ちても平気な理由
ネコは元々樹上性の動物であり、今でもその特性は色濃く残っています。 ひょいひょいと高い場所に上ったり、そのままくつろいでいる姿をよく見かけます。
そんなネコは人間の身長よりも高い場所からだって平気で飛び降ります。 同じ大きさの犬なんてソファから降りて足を痛めることすらあるのに凄い身のこなしですね。 そんな姿から「ネコは高い場所から落ちても平気」と言われているのです。
ネコは丈夫で軽い体に丈夫な足と身軽な身のこなしがあるため、2階程度の高さから飛び下りても平気です。 しかし3階4階と高くなるにつれて、降りた時に酷い怪我をしたり命を失う危険も大きくなっていきます。
つまり「ネコが高い場所から落ちても平気」というのは「丈夫な体・身体能力・身のこなし」によって「人間や他の動物よりも比較的高い場所から飛び降りられる」という事です。 限度はありますし上手く着地できないと怪我をするので、あまりぞんざいに扱ってはいけません。
しかし世の中にはどれだけ高い場所から落ちても平気な生物がいます。 その前説として、まずは終端速度のお話をしましょう。
落下の衝撃と終端速度の話
衝撃は「質量×速度の二乗」で算出され、落下時のダメージも「衝撃」が大きいほど大きくなります。
人間が3cmの高さから飛び降りた時と3mの高さから飛び降りた時では、当然3mの高さから飛び降りた方が受ける衝撃が大きいです。 これは後者の方が速度が速いからです。
物体が落下すると重力によってグングン落下速度が増していきます。 時間当たりに物体がどれだけ加速するかを重力加速度と言いますが、つまりは重力に身を任せた時間が長いほど落下速度が速くなるのです。 低い場所から落ちるよりも高い場所から落ちる方が重力に身を任せる時間が長くなるので、着地時点の速度は高い場所から落ちた方が早くなります。
それでは70kgの人間がスカイダイビングの姿勢で飛び降りる場合、800mの高さと3000mの高さのどちらが受ける衝撃が大きいと思いますか? どちらも粉々に砕けそうではありますが、普通に考えたら3000mの方が衝撃が強そうですよね。
でも答えは「どちらも同じ」なのです。 大気がある環境下においては落下速度が増すにつれて空気抵抗も大きくなり、やがて重力加速度による加速と空気抵抗による減速が釣り合い落下速度が頭打ちするのです。
70kgの人間がスカイダイビングの姿勢で落下した場合、最高速度はおよそ時速200km、最高速度へは800mほどで到達します。 なので高さ828mのブルジュ・ハリファのてっぺんから飛び降りても高さ50kmの成層圏から飛び降りても、地面に到達した時点の速度は同じで受ける衝撃も同じなのです。
このように重力と空気抵抗が釣り合ってそれ以上速くならない速度を「終端速度」と言い、地球上での物体が落下する際の終端速度は「質量」と「空気抵抗」が分かれば求めることができます。 なお質量が小さく空気抵抗が大きいほどに終端速度は遅く、質量が大きく空気抵抗が小さいほどに終端速度は速くなります。
終端速度から受ける落下の衝撃を受けきれるのであれば、どれだけ高い場所から落ちても理論上問題ないことになります。 とは言っても人間なら時速200km、ネコでも時速100kmで地面に叩きつけられるのでまず無理です。
そこで登場するのがアリなのです。 風が吹けば飛ぶような軽い体とそれなりに丈夫な固い皮、何とかなりそうな気がしませんか?
アリは成層圏から落ちても平気
アリの終端速度は時速20~30km程度しかありません。 マンションの屋上から落としても成層圏から落としても、地面に到達する時の速度は時速20~30kmです。
そしてアリは時速数十kmでぶつかっても平気な固い皮膚を持っています。 つまりは高さからの落下で受ける衝撃によってアリが死ぬことはないのです。
なのでアリはネコのように「比較的高い場所から落ちても平気」ではなく、本当の意味で「どれだけ高い場所から落ちても死なない」のです。 まあ成層圏から落としたら地面に届く前に酸欠や寒さで死ぬとは思いますが。
この話の例にはよくアリが出てきますが、小さくて丈夫な虫なら大抵大丈夫だと思います。 コメムシなんかはアリよりも高さに強いんじゃないでしょうか。
機会があればマンションの屋上やもっと高い場所からアリを落として生存するか見てみたいものです。 落としたアリを見つけるのが至難の業なので中々難しいですけどね。