イッカクの長いツノはツノではなくキバが伸びたもの
イッカクは北極海付近に生息するクジラの仲間で、名前の通り頭に長い一本角を持っているのが特徴です。 なおこのツノはオスのみに見られるものでメスには生えません。
イッカクの体長は5m程度なのにツノの長さは3mにもなり、「イッカク」という名前も特徴的な1本のツノを持つことに由来しています。 しかしこのツノ、実はツノではありません。長く伸びたキバです。
イッカクのツノはツノではなくキバ
イッカクとは生物分類の鯨偶蹄目イッカク科に属するクジラの親戚で、シロイルカと近い関係にあります。 実はシロイルカもイッカク科なんですね。なぜイルカとクジラが同じ分類なのかと言えば、イルカとクジラの違いは4mより大きいか小さいかだからです。(※諸説ありますがこれが主流です)
このイッカク、見た目は大体クジラなのですが額に大きなツノを生やしているのが特徴です。 しかしこのツノの特徴、一般的な動物のツノと比べると異質な印象を受けます。 ツノは基本的に争いに使う武器であり太く力強いものです。しかしイッカクのツノは随分と細長くすぐにでも折れてしまうような印象を受けます。
イッカクの幻想的な姿は人目に付かないところ(北緯70度以北の海域)に生息していることも相まって、かつては見間違い・伝説上の動物だと考えられていたぐらいです。 しかし実際にいるんですよね。
さてこのツノに見えるもの、実はツノではなく牙が伸びたものです。 そして一般的な動物のように争う道具として持っているのではなく気象レーダーとして使われています。
イッカクは上あごに2本の牙を持ち、オスはそのうち左側の牙のみが長く伸びてツノのようになるのです。 メスのキバは基本的に伸びませんが稀に1m程度に成長することもあります。またレアケースですがキバが2本とも伸びてイッカクならぬニカクとなることもあるようです。
イッカクのキバの役割
イッカクのキバには神経が通っており、大気に晒すことで湿度・温度・気圧を敏感に感じ取ることができます。 これによってイッカクの生存に適した環境へ移動しながら生活しているのです。 イッカクの生活になぜレーダーが必要なのかと言えば、捕食者=シャチから逃げるためです。
体が大きなイッカクを襲う動物は多くありませんが、北極周辺にはシャチが住んでいます。 シャチはイッカクを襲って食べる天敵なので、イッカクはシャチがいない氷の浮いた寒い海をホームとしています。 (シャチは寒い海にもいますが、北極海まで来るのは夏の間だけで浮氷だらけの場所にはあまり入りません)
しかし北極海周辺海域は寒くなると一面ビッシリ凍るため、そうなると海上に出られず呼吸できなくなり死んでしまいます。 なのでイッカクは常に良い感じに浮氷のある海に身を置く必用がある訳です。
そこで役に立つのが長いツノ改めキバです。 これで周辺の気象状況を敏感に感じ取ってシャチがいなくて氷に閉じ込められない海かを判断しています。 つまりイッカクは夏には氷が多い場所へ北上し、冬には氷に閉じ込められない場所に南下して回遊しているのです。
またこのツノは立派であればあるほどメスにモテるようです。 繁殖期になるとオス同士でツノの立派さをアピールしてメスを奪い合います。 やっぱり長い方が感度が良くてより良い海を見つけられるのでしょうか?
なおこのキバは折れるともう生えてこないので、大切に使わなければなりません。 捕食者との争いや砕氷のために使うなど言語道断なのです。