レミングスの大移動は集団自殺でなくただの引っ越し
レミングと言えば集団(レミングス)で海に飛び込み自殺するというデマで有名です。 某テレビ番組で「アトランティス大陸に泳いで渡る習性があったが、大陸が没したため集団自殺のようになってしまった」と浪漫溢れる話が出てきて、子供心にそう信じていたんですが…
実際の所のレミングは多少の集団を作って引っ越すことはあっても、言う程の大群でも、海に飛び込むこともありません。 根も葉もほとんどないデマの類の話なのです。
レミングとは
レミングは北米や北欧などのツンドラなど寒い場所に生息するネズミです。 複数形でレミングスと言います。
各々がナワバリを持って生活しており、普段は平穏が保たれています。 しかしこのレミング、レミングサイクルと言って3~4年ごとに大発生と激減を繰り返し、大発生年と激減した年の間の生息数差は数十倍にもなります。
レミングが大発生すると、エサが足りなくなったり、互いの距離が近すぎてナワバリが重なって不快感が高まります。 そうなると弱い個体はナワバリから追いやられてしまいます。
追い出されたレミングは数匹~数十匹程度になることもあり、新天地を求めて移動を始めます。 このレミングは和名をタビネズミと言い、名前の通り長距離を旅するように移動するのが得意です。 泳ぎも上手で、川だろうが湖だろうが泳いで渡り、新天地を求めます。
途中で捕食者に食べられたり力尽きたりして脱落したりしながらも、運よく肥沃な土地にたどり着ければそこを新たなナワバリとして繁栄していきます。 まあそんな簡単に新天地に入植できるできる訳ではないでしょうが、これが基本的なレミングの生態です。
集団自殺に結び付くような話がほとんどないように見えますが、実際ほとんど根も葉もない話なのです。 ただこのデマが広がったのにはいくつか理由があります。
レミングスの集団自殺が広まったのはなぜ?
1958年、ウォルトディズニーによるドキュメンタリー映画「白い荒野」でレミングスの集団自殺が取り上げられました。 大量発生したレミングスの大群が海に飛び込んで自殺する姿が話題を呼び、白い荒野はアカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞を獲得します。 こうしてレミングスの集団自殺の話は世界中に広がりました。
自殺の理由についても様々な考察がされました。 生息数を調整するための本能だとか、かつて存在したアトランティス大陸へ渡ろうとしたとか、科学、生物学、オカルトなど多方面で話題に取り上げられます。
しかし1983年にカナダ放送協会がレミングスを調べた際、レミングにこのような習性はないことが判明します。 つまりレミングスの集団自殺はガセだったのです。
ガセと判明したのですが、このガセ話は以後もそのまま広がります。 1991年にはレミングスの集団自殺を題材としたゲーム「レミングス」が2000万本のヒットを記録し、またテレビ番組などでもレミングスの集団自殺を取り上げられたこともあり、レミングスの集団自殺は世代を越えて誰もが知る話となりました。
近年ネットが発達して、やっとガセ話だと明確に認識できた感じでしょうか。 かつては有名な話でしたし、あまりネットをしない世代の人はまだ信じているかもしれませんね。
レミングサイクルはなぜ起きる?
ついでなので数年ごとに大発生と激減を繰り返すレミングサイクルが起きる理由をお話しします。 レミングサイクルはやたらと数が増減して特殊なもののようにも思えますが、食物連鎖の基本的なサイクルと同じ仕組みです。
まずレミングが大増殖すると、レミングをエサとしている捕食者たちは豊富なエサにありつけるようになります。 捕食者が飢えて死ぬことはなくなり、沢山の子を産み養うことができます。
そうして捕食者が増えると、沢山のレミングが食べられるようになります。 沢山の捕食者たちがエサを必要とし、手当たり次第に食べられたレミングは激減してしまいます。
そしてレミングの数が減りすぎると、増えた捕食者たちが満足に生活するだけのエサがなくなります。 飢えて死んだり、子を産めなかったりしながら捕食者は大きく数を減らします。
そうして捕食者とレミングの双方が少ない状態だと、レミングは豊富なエサにありつけ、かつ捕食される危険が低い状態になります。 そうしてレミングは再び大発生し、この一連のサイクルが繰り返される訳です。