錬金術は化学の礎となった真面目な学問だった

フラスコを掲げる錬金術師

誰もが「石ころを金に変えられたら大金持ちになるのになあ…」なんて考えたことがあると思います。 そんな欲望を現実のものにしようとしたのが、錬金術と呼ばれている試みです。

錬金術はファンタジー世界でお馴染みの技術体系であり、空想の存在だと思っている人も少なくありません。 しかし錬金術は先人たちが世界各地で行ってきた試みであり、化学の礎となった真面目な学問だったのです。

錬金術とは

錬金術の本

錬金術は主に卑金属から貴金属を生み出そうとする試みのことを指しますが、他にも合成金属、薬、実験手法、肉体や魂の探求なども錬金術に含まれます。 古代から近代頃まで、世界各地でこの類の試みが行われていました。

日本語では「錬金」という字面から金の錬成を試みていたイメージが強いですが、英語であるalchemyにはそのように範囲を限定する意味合いは含まれていません。ちなみに錬金術を生業とする人のことを錬金術師、英語でアルケミストと言います。

錬金術の目的

錬金術では卑金属を貴金属に変える触媒の生成や、不老不死の霊薬を作ることを究極の目標としていました。

地域や時代によって触媒や霊薬の効果や呼び名は変わりましたが、考えることはどこも似たり寄ったりだったようです。 フィクションによく登場する「賢者の石」や「エリクサー」は、西欧の錬金術にて目標にしていたものの名称です。

錬金術の評価

錬金術は現代目線で見ると、宗教・哲学・思想・呪術が入り混じった胡散臭い代物に見えます。 また錬金術師にはクズを貴金属や霊薬として売りつけるような詐欺師もいたため、錬金術全盛の時代ですら胡散臭い代物だったのかもしれません。

しかし錬金術には科学的側面も多分に含まれており、その過程で「火薬」「溶解液」「磁器」「ステンレス合金」など数々の発見がありました。 磁器と言えばマイセンが有名ですが、発明者ヨハン・フリードリッヒ・ベトガーの肩書は錬金術師だったりします。

錬金術は時代を下るごとに洗練され、徐々に非科学的な側面はそぎ落とされ、やがて化学へと生まれ変わりました。 錬金術により発見された法則や手法は、現代における化学や医学の礎となっているのです。

現代科学なら錬金術は可能

金の延べ棒

近代までに試みられていた錬金術では、化学変化は起こせても物質を変性させることは叶いません。 科学の発達により「物質は原子の組み合わせであり、原子自体は変化しない」ことが分かり、錬金術は絵空事となりました。

しかし今日の科学力をもってすれば、物質を変性させることは不可能ではありません。 水銀を金に変換することは錬金術(化学)の領域では無理でも、物理学の領域では可能なのです。

現代科学による錬金術の実現

原子は陽子の数によって性質が決まります。 中学生ぐらいで周期表を習うと思いますが、あの原子番号は原子核に内包されている陽子の数を表しています。 つまりこの陽子の数を変えることができれば、物質を変性させることは可能なのです。

金の原子番号は79で、その隣には原子番号80の水銀があります。 水銀が持つ80個の陽子を一つ抜くことができれば金となる訳で、これは水銀を原子炉に放りこむことで実現できます。

現実には厳しい錬金術

原子は強い力でまとまっているため、そこから陽子を追い出すのは簡単なことではありません。 膨大なコストと手間がかかりますし、それで生み出せる金は微量な上に放射能を放つ放射性同位体です。

残念ながら現代の科学力では錬金術でお金儲けはできません。 金が欲しいなら原子炉に水銀を入れるよりも、ツルハシをもって鉱山に行く方がずっと良いでしょう。

しかし錬金術の「卑金属を黄金に変える」目標は達成できたと言えます。 錬金術が不可能から可能になったように、遠い未来には安定した金が安価に供給できるようになるかもしれません。 今後の進展に期待ですね。

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