スズメバチ|大型で攻撃性の強いハチ
スズメバチは大型で攻撃性の強いハチです。 強力な毒針を持つ種もいて刺されると人間でも危ないほどで、日本では人殺し生物の上位常連です。
一匹の女王を頂点とした社会性昆虫ですが、人間のイメージとはかけ離れた不思議で興味深い生態をしています。 そんな身近だけど意外と知らないスズメバチの生態をお話します。
スズメバチの特徴
スズメバチの名前は「スズメぐらい大きい」ことに由来すると言われています。 その名の通りハチの中でもかなりの大型です。
体色は黄色と黒の縞模様のものが多いですが、これは捕食者に手を出せば反撃すると訴える警戒色です。 目の端に入っただけですぐヤバいハチだと分かります。
主な獲物は昆虫や小動物で、カマキリやカミキリムシなどの大きく強い昆虫も倒してしまいます。 オオスズメバチに至っては他種のハチをも獲物にしています。
昆虫などの小動物を襲うため肉食のイメージが強いですが、実は成虫は肉を食べません。 小動物を肉団子にして持ち帰り幼虫に与え、幼虫が食事の際に出す分泌液を主な食事にしています。 幼虫と成虫は互いにエサを与えあう関係という訳です。
成虫は他にも樹液や蜜などを補助的に食べます。他の昆虫と一緒に樹液を舐めているのもそんな事情です。
巣を中心に数百m~2kmほどの範囲で活動し、その飛行速度は30~40km/hにも達します。
社会性昆虫
スズメバチは個体間で分業した集団を形成する社会性昆虫です。
春~夏の巣には産卵担当の一匹の女王バチと、その他の業務を担う働きバチがいます。 働きバチは交尾済みの女王バチのみが産むことができ、全てメスで最盛期には巣に500匹ほどいます。
秋になって巣が最盛期を迎えると、数十~数百匹の新女王バチと他巣の新女王バチの交尾相手となるオスバチを産み育てます。これらは次世代の繁殖のための個体であり、働きバチに世話をして貰うだけで手伝ったりはしません。
女王バチが死んだら働きバチも産卵するようになりますが、交尾していないので役立たずのオスバチしか生まれません。 そのため巣の運営が立ち行かなくなり崩壊します。
結構捕食される
スズメバチは強力な昆虫で色々な生物を捕食しますが、逆にスズメバチを捕食する動物も多いです。 鳥や小動物はもちろん、カマキリやオニヤンマに狩られることもあります。
更には樹液を舐める際の縄張り争いでカブトムシやオオムラサキに追いやられることもあり、単体で見るとそこまで強い訳ではありません。
しかし数百匹いる働きバチが多少倒されても巣の活動に支障はありません。 真の天敵と言えるのはスズメバチの巣ごと駆逐してしまうクマや人間、そして他種スズメバチを根こそぎ全滅させるオオスズメバチぐらいでしょう。
人をも殺す毒針
毒針は産卵管が変化したもので、オスのハチには毒針はありません。 しかし我々が目にするハチはほとんどが働きバチ=メスなので大体みんな刺してきます。
またニホンミツバチのように一度刺したら腹が破れて死ぬなんてこともなく、何度も何度も刺してきます。 これが巣から離れた単独行動のハチならまだマシですが、巣の近くになると集団で何度も何度も刺してくるので本当に危険です。
スズメバチは人をも殺す毒針を持つ殺人昆虫です。 しかしその毒性は人を基準で考えるとそこまで強力ではありません。
スズメバチによる死亡事故は人間の持つ免疫の過剰反応(アナフィラキシーショック)のケースがほとんどです。 そのため一度刺されて体内で抗体が作られた後の2回目以降が危ないと言われています。
なお1回なら絶対安心という訳でも、2回目以降は絶対危ないという訳でもありません。 刺されて30分以内に深刻な症状がなければ問題ないので目安にすると良いでしょう。
スズメバチの生態
スズメバチの一日
巣を中心に数百~数キロの範囲で活動します。 働きバチは日中にエサを探しに行き、昆虫や小動物を捕まえて肉団子にして巣に持ち帰ります。 獲物は昆虫や小動物など多岐に渡り、種によっては他種のスズメバチすらも獲物とします。
雨が長続きして食料不足になった際には一部の幼虫を肉団子にすることもあります。
スズメバチの一年
春になると越冬した女王バチが一匹で巣作りを始めます。 前年秋ごろに交尾しているため交尾相手は不要です。
巣作りに並行して産卵や子育ても行い、女王バチは孵化した幼虫のためにせっせとエサを集めて育てます。 そのためこの時期のスズメバチはサイズがやや小さめです。
働きバチが成長すると女王バチは産卵に専念するようになり、巣の拡張やエサ集めなどは働きバチに任せます。
働きバチは卵から5日で孵化して幼虫となり、2週間で繭を作って蛹となり、2週間で羽化して成虫となります。 卵から成虫になるまでおよそ1か月ほどでです。
女王バチは秋になると、数百匹の新女王バチと、他巣の新女王バチとの交尾相手となるオスバチを産みます。 オスバチは成熟すると他巣の新女王バチと交尾すべく巣立ち、その後に新女王バチが巣立ちます。
この両者が巣立つと巣の役割は終わり冬には全滅します。 オスバチも交尾後にほどなく寿命を迎えて死に、新女王バチのみが地中で越冬して春を待ちます。
女王バチの寿命は1年、それ以外の寿命は1か月ほどです。
スズメバチの仲間
オオスズメバチ
オオスズメバチは大きく獰猛な種で世界最強のハチと言われています。 ハチの中でも最大級の体格と、最大級に強力な毒針を持っています。
スズメバチは基本的に個人行動ですがオオスズメバチは例外で、いい餌場があるとフェロモンで仲間を呼びよせて集団で根こそぎ奪い去っていきます。 ミツバチを巣ごと全滅させることで有名ですが、実は他種スズメバチも狩猟対象です。
オオスズメバチにとってもスズメバチは死者の出る強敵ですが、殺されても気にせず味方の死骸もエサとして持ち帰ります。 オオスズメバチはそれ以外のスズメバチにとって天敵です。
オオスズメバチとの付き合いが長いニホンミツバチは対抗手段を持っています。 オオスズメバチの斥候を見つけると仲間を呼ばれないうちに集団でまとわりつき、球状になって高温で蒸し殺してしまいます。 なお増援を呼ばれた場合はどうにもならないので巣を放棄して逃亡します。
キイロスズメバチ
キイロスズメバチは黄色が強い見た目のスズメバチで、他種と比べてやや毛量が多いのも特徴です。
生ごみをエサにするため、都市部や住宅地にも多く見られます。 軒下や天井裏などにも巣を作り、気性も荒いため人がよく被害にあう蜂です。
キイロスズメバチ同士は仲が良く、二つの巣が合併したり、二匹の女王バチで巣作りすることもあります。
コガタスズメバチ
コガタスズメバチは体長2~3cmほどのスズメバチにしてはやや小さい種です。 ただコガタと言っても指標となるスズメバチがデカいので言うほど小さくありません。
こちらも生ごみをエサにするため、都市部や住宅地にも多く見られます。軒下や天井裏などにも巣を作り、人がよく被害にあう蜂です。
女王バチは花瓶のような逆フラスコ型の巣を作りますが、働きバチが羽化すると長い部分は切り取られ球状になります。
クロスズメバチ
クロスズメバチは全体が黒く、体長1~1.5mmほどの小型種です。 色が黒白でコガタスズメバチの半分ぐらいの大きさしかないため、スズメバチのイメージとは少し違うかもしれません。。
小さく大人しいためスズメバチの中では比較的安全な種です。 しかし木の洞や地中など分かりにくい場所に巣をつくるため、知らずに近付いて襲われることがあります。
アシナガバチ
アシナガバチは足を垂らして飛んでいるため足が長く見える種です。 しかしこれは姿勢の問題で、実際の長さは言うほど変わりません。
一般的にスズメバチと呼称されるハチにアシナガバチは含まれませんが、分類的にはスズメバチ科の昆虫です。 他種スズメバチと比べて小さく攻撃性も控え目なため、巣を刺激しない限りは滅多に攻撃されません。
六角形の巣穴がむき出しの巣を作ります。
ツマアカスズメバチ
ツマアカスズメバチは体色は黒くて一見するとスズメバチっぽくありませんが立派なスズメバチです。体長は2~3cmほどで小ぶりですが攻撃性が非常に高く、人間もよく被害にあいます。
女王バチは地中などの目立たない場所に営巣し、ある程度働きバチが増えると高所に総員で一気に巣作りして引っ越す習性を持っています。 そのため初期段階の巣を発見するのが難しく、気付いたらデカい巣ができていたなんてことになります。
スズメバチ対策講座
巣には近づかない
巣は天敵があまり通らない場所に作られることが多いので、人通りが少ない場所にはあまり立ち入らないのが賢明です。
スズメバチは巣に近づくと数匹の斥候が出てきて「カチカチ」と顎を鳴らして目の前を滞空したり周囲を飛んだりします。 これは「ここから立ち去れ」という警告であり、無視して近づいたりその場に留まり続ければ攻撃体制に移ります。
スズメバチは毒針の他にも毒の噴射による攻撃があり、毒には攻撃フェロモンが含まれています。 浴びると「こいつを殺せ」という目印になり、周囲のスズメバチの総攻撃にさらされます。
こうなると逃げても追いかけてくるので、何度も刺されて大変なことになります。 スズメバチの巣には絶対に近付かず、不用意に近づいてしまった場合は警告音に従ってすぐ退がりましょう。
毒液を浴びてしまったらもう全力で逃げるしかありません。 なお水の中には入ってこれないので、安全な水場であれば避難するのも手かもしれません。
開けたジュースに注意
空けたジュースを脇に置いて、飲もうとしたら中にいたスズメバチに刺されるケースが多いです。 知らぬ間にスズメバチが入りこむんですね。
野外でジュースの蓋を開けっぱなしにして置くのはやめましょう。 アリや他の虫が入り込むこともありますしね。
目立つ服に注意
スズメバチを怒らせると目立つ色に向かって攻撃を仕掛けてきます。 明るい場所では黒が、暗い場所では白が危険です。
夜にスズメバチの縄張りに入る人はそうはいないでしょうから、基本的に黒を避ければ良いです。 レジャーの際には明るい服を着ましょう。
駆除は春先がおすすめ
スズメバチは女王バチのみが越冬し、春先から一匹で営巣・繁殖を始めます。 少しずつ数を増やしてやがて数百~数千匹規模の巣に成長し、こうなると駆除するのは大変です。
逆に春先なら女王バチのみ始末すれば解決します。 ペットボトルの底にジュースを入れて返しをつけただけのシンプルな罠を使うのが一般的で、これひとつで何十匹もの女王バチを処理できます。 ただし女王バチが巣を繁栄させられる可能性は1%ほどで、沢山駆除しても油断は禁物です。
スズメバチが営巣したことのある場所は再び営巣場所に選ばれる可能性が高いです。 見回って大きくならないうちに処理してしまうと良いでしょう。