近親交配(近親婚)が危険な理由は劣性遺伝子の発現
人や動物は身内同士の交配である近親交配を本能や習性により避ける傾向にあります。 近親交配から生まれた子は劣性遺伝子が発現する割合が増え、基本的に好ましくないことだからです。
遺伝子の仕組みはどうなっているのか、なぜ劣性遺伝子が発現するのが好ましくないのかを見てみましょう。
優性遺伝子と劣性遺伝子
遺伝子とは
全ての生物は「遺伝子」を持っています。草、木、花、昆虫、魚、動物、ヒトなど、生物であれば例外はありません。 遺伝子は「体の設計図」とも呼ばれ、全ての生物はこの遺伝子に書いてある通りに構成されています。
細胞ひとつひとつの中に細胞核があり、細胞核の中に長いDNAが巻かれた染色体があり、その染色体の中に遺伝子があります。 ヒトであれば60兆個の細胞ひとつひとつの中に2万2千個の遺伝子が入っています。
ヒトは性染色体以外の常染色体は、父親と母親それぞれから受け継いだ対の遺伝子を持ちます。 この組み合わせで子の特性が決まりますが、遺伝子が必ず表に出てくる訳ではありません。
例えば黒髪と金髪の夫婦から生まれた子どもの髪は黒色か金色のどちらかになります。 半分ずつ生えてくるなんてことにはなりませんね。
この仕組みを作っているのが「優性遺伝子」と「劣性遺伝子」です。
優性遺伝子と劣性遺伝子の仕組み
髪の色を例にして、優性遺伝子と劣性遺伝子の仕組みを見てみましょう。
黒髪の遺伝子を「A」、金髪の遺伝子を「a」とします。 両親が「AA」と「aa」だとすると、これらを1つずつ受け継いだ子の遺伝子は「Aa」となります。
「Aa」は黒髪と金髪の両方の遺伝子を持ちますが、子に黒髪と金髪が混在する訳ではなく、どちらか一方だけが発現します。 そしてどちらが発現するかは遺伝子の優劣によって決まっており、Aaの場合は必ず黒髪になります。
このような競合が起きた時、発現する方を「優性遺伝子」、発現しない方を「劣性遺伝子」と言います。 「AA」は両方黒髪の遺伝子なので黒髪、「Aa」は金髪の遺伝子も持ち合わせていますが黒髪が優性なので黒髪、「aa」の時にだけ金髪になります。
それを踏まえて黒髪の夫婦の子供が金髪になるケースを考えましょう。
黒髪の両親から金髪の子が産まれることもある
「AA」同士の夫婦の場合
子はどう貰っても「AA」になるので、全ての子が混じりっけなしの黒髪となります。
「Aa」と「AA」の夫婦の場合
子は2/4の確率で「AA」、2/4の確率で「Aa」になります。
「AA」はもちろん「Aa」の場合も優性遺伝子の黒髪が優先されるので、全ての子が黒髪となります。
「Aa」同士の夫婦の場合
子は1/2の確率で「Aa」、1/4の確率で「AA」、1/4の確率で「aa」になります。
髪の色で考えると子は3/4の確率(AA+Aa)で黒髪になりますが、1/4の確率(aa)で金髪となります。
これが優性遺伝子と劣性遺伝子の基本的な仕組みです。 これを踏まえて近親婚のリスクを見てみましょう。
近親交配のリスク
劣性遺伝子は表に出てきにくい
我々の遺伝子には優性遺伝子と劣性遺伝子が混在しています。 優性遺伝子は片方でも優性なら特性が発現する一方で、劣性遺伝子は両方が劣性遺伝子でないと特性は発現しません。
そのため通常の(血の繋がりがない)交配では、同じ劣性遺伝子を持っている可能性は低くなり、その特性は表に出にくいです。
劣性遺伝子が優れた力や美形などの長所であれば是非顕在化して欲しいところですが、そう都合いいものばかりではありません。 障害や先天性の疾患など、我々にとって都合の悪いものも優性遺伝子に抑えつけられています。
近親婚は同じ劣性遺伝子を持っている可能性が高くなり、普段あまり表に出てこない特性を持った子が産まれます。 これが美形だったり優秀な能力を持っていたりなら良いですが、逆に疾病や障害で生きていくことすら難しい体に生まれるかもしれません。
近親交配は普通ではない子が生まれると言われているのはそのためでしょう。
確率で考える優性遺伝子と劣性遺伝子の特性
環境に対して有利/不利な優性/劣性遺伝子を持っていた場合、その血統がどうなるかを考えてみましょう。遺伝子 | 環境 | 結果 |
---|---|---|
優性遺伝子 | 適応した | すごく繁栄する |
適応できなかった | すごく淘汰される | |
劣性遺伝子 | 適応した | 少し繁栄する |
適応できなかった | 少し淘汰される |
ものすごく大雑把に言えばこんな結果になるはずです。
なので今を生きる我々の遺伝子には、優性遺伝子の方に有利な特性が多く備えられていると考えられます。
それを考えると、優性遺伝子を受け継ぐ可能性が低くなる近親交配は、あまり望ましくない行為と言えるのかもしれません。
劣性遺伝遺伝子は環境変化への備え
一定の環境下ではその環境で有利な優性遺伝子を持つ個体が繁栄しやすいです。 しかし気候の変化、病気の流行、天敵の侵入、食料不足など様々な要因が環境を変え、繁栄に有利な特性もまた変わります。
環境の変化に適応できない優性遺伝子を持っていると、種は淘汰され生息域が狭まっていきます。 すると自然と近親交配が増えていき、従来はあまり表に出てこなかった劣性遺伝子の特性を持つ個体が増えていきます。
そうして出てきた変わった特徴を持つ個体が変化した環境に上手く適応できれば、再び種が繁栄することも可能な訳ですね。 狙ってやってるのか偶然そうなってるのか分かりませんが、遺伝子って上手くできていますよね。
動物の交配事情
野性動物も近親交配を避ける
人間以外の動物においても近親交配はあまり好ましいものではありません。 「犬は雑種の方が生命力が強い」なんて話がありますが、これも遺伝子的な問題ですね。
動物は成熟すると親から遠くに追い出されたり群れから離れて独り立ちしたりなど、近親交配を避ける習性を持つものが多いです。 メスは近縁者が匂いで分かり交配を避けるなんて研究結果もありますね。このように動物は本能的に近親交配を避けているのです。
ペットや家畜の近親交配による品種改良「インブリード」
人間に都合の良い特性を持つ家畜やペットを生み出すため、そういった特性を持つ個体同士を意図的に近親交配させて品種改良することがあります。
これによりたまたま生まれた好ましい特性を持つ個体を一代限りの突然変異として終わらせず、子々孫々にも同様の特性を引き継がせることができる訳です。 これを「インブリード」と言います。
しかしこうして作られた品種は特有の問題を抱えていることも少なくありません。 例えば犬や猫はインブリードによって様々な品種が生み出されましたが、品種によって骨格が弱かったり特定の病気にかかりやすかったりなどのリスクも抱えています。
近親交配の是非は人それぞれ考えがあると思いますが、このようなリスクもあることは覚えておきましょう。