イチジクは漢字で「無花果」と書くが花はある
イチジクは漢字で「無花果」と書き、「花が無い果物」と読むことができます。 その名の通り一見すると花は咲いていないように見えるのですが、実はイチジクにも花はあります。
我々がイチジクの果肉と認識しているものに、イチジクの花が入っているのです。
我々が食べているイチジクは、果肉ではなく花だった
通常の果実は花が受粉して実になりますが、イチジクにはそれらしい花がありません。 イチジクを「無花果」と書くのも、イチジクは花が咲かないまま実を付けているかのように見えたからです。
しかしながらイチジクにも花はあります。 イチジクの木になっている実のようなものは、花嚢と呼ばれる花軸が袋状になったものです。 この内側に沢山の小さい花を付けています。
花嚢は成熟して果嚢となり、これが我々の食べているイチジクです。 だから我々が食べているのは果肉というよりも花嚢なのです。
イチジクは花嚢の中で白い花を咲かせ、熟して種となります。 しかしイチジクの実の中で花が咲いたとして、どうやって受粉しているのか疑問に思いますよね。 イチジクの実は固い殻に守られていて、とても花粉が入り込む隙間があるようには見えません。
ところがイチジクにはちゃんと受粉する手段があるんです。 「イチジクコバチ」というハチが送粉者を担っています。
イチジクはイチジクコバチが受粉させている
イチジクは株ごとにオスとメスに分かれており、雄株には雄花、雌株には雌花が咲きます。 イチジクは雄株も雌株も実のような花を作りますが、どちらも殻に守られています。
通常の手段では花粉は雄株の実の外に出ていかず、雌株の実の中に入ってきません。 そんなイチジクの受粉は、イチジクと共生関係にある「イチジクコバチ」という体長1mmのハチが行っています。
イチジクコバチは「雄株のイチジクの木の実の中」で誕生します。 誕生して数時間で実の中で交尾し、イチジクコバチのオスは実からの出口を作って短い一生を終えます。
その後メスはオスが作った出口から飛び出し、産卵場所であるイチジクの雄株の実の中を目指します。 しかしイチジクコバチはイチジクの雄株と雌株を見分けることができないので、当てずっぽうで実に入ります。
この時メスは体にイチジクの雄株の花粉を付けているため、それが雌株のイチジクの木の実に入り込むとイチジクは受粉できるという訳です。
しかし雌株の実に入り込んでしまったイチジクコバチは雌花が邪魔で産卵できないまま死にます。 また目的の雄株の実に入ることが出来ても、産卵を終えるとそこで寿命を終えてしまいます。
イチジクコバチが産卵まで漕ぎつくとイチジクが受粉できず、イチジクが受粉するとイチジクコバチは産卵できません。 一見すると利益相反の関係に見えますが、イチジクコバチが雄株と雌株のどちらにも突っ込んでいくのは互いの繁殖に必須の行動なのです。
もしイチジクコバチが雄株と雌株を見分ける能力を身に付けたり、イチジクが上手いこと雌株にだけ誘導する能力を身に付けてしまうと、一方が絶滅してやがてもう一方も絶滅してしまいます。 なんともままならない関係ですね。
さてこのイチジクコバチ、気候の関係で日本には生息できません。 それなのに日本ではイチジクが沢山繁殖していますが、なぜだか分かるでしょうか?
日本のイチジクは挿し木で増える
イチジクコバチにとって日本は寒すぎて生きていけません。 そのため日本でイチジクは自然受粉できませんが、しかしイチジクがそこら中に生えています。
一体どうやってイチジクを増やしているのかと言えば、挿し木によって増やしています。 イチジクは枝を切って土に刺すと、そこから新たなイチジクの木として成長できるのです。
だから受粉できなくても増やし放題という訳ですね。 日本のイチジクは同一遺伝子のクローンも多いことでしょう。
しかもイチジクはおいしく食べられるように品種改良が繰り返され、受粉しなくても実が熟すようになっています。 いくらでも挿し木で増やしておいしく食べられるなんて便利にできていますね。