ネロとパトラッシュの悲劇的物語「フランダースの犬」の雑学

セントバーナード

フランダースの犬はイギリスの小説または世界名作劇場の子ども向けアニメです。 アニメの放送は1975年と古い作品ですが、再放送やネット放送もあってか泣けるアニメとして未だに語り継がれています。

しかしその内容は世知辛かったり悲劇的な結末だったりと、あまり子ども向けではないような気がします。 そんなフランダースの犬のアニメ・原作を完走したので、そこで得た雑学をお話したいと思います。

簡単なあらすじ

少年ネロ・老犬パトラッシュ・おじいさんの一家は村の牛乳を街に運ぶ仕事をしており、貧乏ながらも人々に支えられながら平穏に生きていました。

ネロは村一番の金持ちの娘・アロアに懐かれていましたが、アロアの父・コゼツは貧乏なネロとアロアの仲を良く思っていません。 また仕事もせずに絵ばかり描いているネロのことを怠け者だと思っていました。

そんなネロに立て続けに不幸が襲い掛かります。 心の支えだったおじいさんの死、葬式代で家賃が払えなくなる、コゼツに放火の疑いをかけられて仕事を失う、絵画コンクールで落選する、ついには真冬に家を追い出されてしまいます。

進退窮まったネロですが、コゼツが落とした全財産を拾って届けたのを契機に事態は好転しかかります。 火事も自然発火だったことが分かって誤解は解け、またネロの絵が高く評価されて審査員がネロを弟子にしようとやってきました。

しかし生きる希望を失ったネロは吹雪の中を歩いて街の教会へやってきていました。 普段はカーテンに覆われている絵が開放されており、最期にルーベンスの絵を見る夢が叶います。

ネロは追ってきたパトラッシュと共に眠るように亡くなり、天へと召されるのでした。

フランダースの犬とは

題名であるフランダースの犬とはパトラッシュのことですが、ベルギーとフランスの国境あたりのフランダース地方産の犬という意味もあります。 フランダースの犬は筋肉が発達していて、惨たらしい労働者として酷使され、最期は力尽きて行き倒れる運命を持っていると説明されています。

パトラッシュも最初の飼い主の下ではろくな食事を与えられずに重労働を課せられ数年で行き倒れました。 そこをネロとおじいさんに見つけられて甲斐甲斐しい世話を受けて快方し、それからは家族の一員となりネロと兄弟のように生きてきた訳です。

フランダースの犬と言えばアニメの影響でセントバーナードのイメージが強いですが、実際のモデルとなった犬種は「ブービエ・デ・フランダース」です。

ブービエ

原作とアニメでは年齢が違う

原作のネロは15歳

アニメのネロは大人の腰~胸ほどの背丈しかなく、年齢不明ですが10歳の少年と設定されているそうです。 しかし原作では15歳の青年であり、時代柄を考えるともう立派な大人です。

原作とアニメにおけるネロの行動に大きな差はありませんが、この年齢差から印象がかなり変わってきます。

たとえば日中に絵を描いているのを怠け者だとコゼツに断じられた時、アニメならまだ子どもなので庇いたくなります。 対して原作だと一人前の大人が仕事もせずに絵を描いている訳で、コゼツの言うことも分からなくもありません。

原作のパトラッシュも15歳

原作ではネロが3歳の頃に3歳のパトラッシュを拾い、それから12年間を共にして劇中では二人とも15歳です。 兄弟でもこれほど仲がよい者はいないとされるほどの仲で、互いに支え合って生きてきました。

対してアニメではパトラッシュが拾われたのは劇中なので、その付き合いは1年足らずです。 年齢不明ですが長生きできない生活を強いられていたことを考えると、原作と比べて大分若いように思います。

ネロの絵に対するモチベーションが違う

ネロの絵に対するモチベーションにも原作とアニメで違いが見られます。

アニメのネロはおじいさんやパトラッシュと一緒に貧乏でもいいから平穏に暮らしたいと考えています。 絵を描く理由も単純に興味からで、漠然と絵描きになれれば良いと考えつつも具体的なことはあまり考えていません。

対して原作のネロは強い出世欲を持ち、偉くなれなければ死ぬとまで言っています。 貧乏で立場の弱いネロが偉くなれる唯一の手段として絵に賭けており、コンクールはその第一歩と考えています。

原作の方が野心に溢れる印象ですが、これは設定年齢の差によるものでしょうか。 子どもの頃には見えなかったものが見えるようになり、否が応でも選択を迫られるのが人生ですからね。

コンクールに出した絵のテーマが違う

ネロは絵をコンクールに出品するも、技術的に未熟なため惜しくも優勝を逃してしまいます。 しかしその絵には確かな才能を感じるところがあり、審査員のひとりがネロを弟子にとろうとやってきたほどです。

このコンクールに出した絵、実はアニメ版と原作で題材が違います。 また絵を描く動機やなりゆきにも若干の差異が見られます。

アニメでは「おじいさんとパトラッシュ」

アニメのおじいさんはネロの絵好きを知っており、やりたいことをやって欲しいと無理して働いてコンクールのための画材を買いました。 その影響か調子を崩して亡くなってしまいますが、ネロに「いい絵を描くんだぞ」と言い遺しています。

おじいさんの死後に木こりのおじさんがネロを引き取りにきましたが、ネロはおじいさんとの思い出の小屋にて絵を描きあげたいからと断り、見事な「おじいさんとパトラッシュ」の絵を描き上げます。

原作では「年老いた木こり」

原作のおじいさんはネロには立派な農夫になって欲しいと願っており、おそらくネロが絵描きになりたいのもコンクールに出そうとしているのも知りません。 またネロに貧乏で辛い思いをさせているのを申し訳なく思う一方、貧乏人は選り好みするものじゃないと言い聞かせています。

そんな原作のネロが描いたのはおじいさんでもパトラッシュでもなく「年老いた木こり」の絵です。 老いぼれて疲れた老人の木こりが倒れた木に腰掛け、世の辛酸をなめつくした顔で物思いにふける絵だそうです。

おじいさんは元軍人

おじいさんの素性はアニメでは特に説明されていませんが原作で言及されています。

若い頃に故郷を飛び出したものの上手く行かず、老年になってようやく村に落ち着いたそうです。 誠実な人柄なので村人から色々と仕事を融通して貰えましたが、最近は加齢により色々なことが難しくなっています。

原作ではネロが2歳の時におじいさんが80歳とされているので、孫のネロとはなんと78歳の差があります。 つまりネロが15歳の劇中ではもう90歳を超えている計算になります。

おじいさんは軍人だった経験もあり、ナポレオンがベルギーに攻めてきた際に参戦したそうです。 しかしこの戦争で大きな傷を受けて片足が不自由になっています。

原作のおじいさんがネロに「しっかりした農夫になって欲しい」と言い聞かせているのも自身の経験からと思われます。 残念ながらネロには届かなかったようですが…

ネロの両親は?

ネロの両親は劇中には出てきません。 母親はネロが幼い頃に亡くなっており、父親は一切言及がなく謎に包まれています。

ネロは母親が亡くなってからはその父であるおじいさんに引き取られています。 教会に飾られているマリア様の絵に母親を重ねており、だからこそ絵に強い興味を示しているのかもしれません。

ネロの生まれはフランスとベルギーの境を流れるムーズ河の畔の田舎町とされています。 父親はこのあたりに縁があったと考えられるので、フランス系ではないかと言われることもあります。

アニメのネロは死ぬ必要がなかった?

フランダースの犬は最終回にて、ネロは吹雪の中を歩いて教会へと辿り着いてルーベンスの絵を見る夢を叶え、追ってきたパトラッシュとともにやがて息絶えます。 原作のネロは絵での立身出世の夢破れ、頼れる人もなく教会へ辿り着いた結果の出来事です。

しかしアニメ版のネロがこの結末を迎えるのはやや不自然さがあります。 なぜなら原作にはいなかった、ネロのことを気に掛ける木こりのミシェルおじさんがいるからです。

なぜかミシェルを頼らなかったネロ

おじいさんが亡くなった時にミシェルがネロを引き取りにきますが、ネロはコンクールの発表があるクリスマスまで待って欲しいと申し出ています。 そうして迎えたクリスマスは残念ながらコンクールに落選し、また家賃が払えず放火の疑いもあったため家から追い出されてしまいます。

そしてネロは教会へと向かう訳ですが、この時ミシェルを待つか頼るかすれば死なずに済んだはずなのです。 ネロがそれをせずに一人教会に向かってしまった理由は不明です。

ぶっちゃけたことを言うと原作の結末に寄せるためにミシェルを無視する展開になったような気がします。 憶測になりますが当初はハッピーエンドで終わる予定がありミシェル関連エピソードを用意していたのが、最終回になってやはり結末を原作と同じにすることに決まったのではないでしょうか。

最後の金を展覧会に使うネロ

アニメ最終回間近のネロは食うに困るほど困窮しますが、実は最後のお金をルーベンスの展覧会に使っています。 このお金で根本的に立て直せる訳ではありませんが、なぜそこに使ってしまったんだと言わざるを得ません。

原作にしろアニメにしろ、ネロの言動には少し浮世離れしたところがあります。 良くも悪くも芸術家肌の性格をしており、もう少しうまく立ち回れば良いのにと思ってしまいます。

原作のおじいさんの言う通り、貧乏人として己の分を弁え、コゼツに従ってアロアとは距離を置き、堅実に生きていれば死ぬことはなかったのでしょう。 しかしそれはそれで人生に希望がないので中々難しい問題ですね。

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