つぎ込んだコストが大きいと止められなくなる心理「コンコルド効果」
何かを止めたいと思った時、今までかけたコストが頭をよぎることがあります。 せっかく今まで頑張ったのに、せっかく色々お金をかけたのにと考え始めると、止めるのが勿体なくなって今のまま続けたい気持ちが湧いてきますよね。 学業、スポーツ、芸術、投資、プロジェクトなど、何事にもこういった心理は働きます。
中には今までかけたコストが無駄になるのを恐れ、半ば無駄だと分かっているにもかかわらず継続することすらあります。 それで挽回できればいいですが、無駄に傷口を広げただけの結果に終わることも多いです。
そんな無駄だと思っているのに止められない状態や心理を、超音速旅客機コンコルドの失敗になぞらえて「コンコルド効果」と言います。
コンコルド効果とは
あなたは5000円でゲームを購入し、1時間ほどプレイして「つまらない」と判断しました。 この時あなたはゲームをスパッと辞めますか?それとも「この後面白くなるかも」「せっかく買ったのだから」と続けますか?
ゲームならスパッと止める人も多いですが、これが映画ならどうでしょう。 つまらないからこれ以上は時間の無駄だと思いながらも、結局ずるずると最後まで見続けてしまう人も少なくないのではないでしょうか。
人には「今までにかけた労力/費用/時間を無駄にしたくない」と考える心理があります。 この心理は時に止めるべき所で止められず、更なる無駄を生み出してしまう結果を招いてしまうこともあるのです。
「投資で何百万もの損失を出し、それを挽回しようと更に資金を投入した結果、許容量を超えて破たんした」なんてよくある話ですよね。 傍から見るとバカみたいですが、規模こそ違えど同じようなことを誰もが日常的にしているのです。
こういった「これ以上続けても無駄だと半ば分かっているのに、今までのコストを無視できずにやめられなくなる状態」を「コンコルド効果」と言います。
コンコルド効果の由来となったコンコルドの顛末
コンコルドは超音速旅客機で、1976年~2003年まで営業飛行していました。 特筆すべきはその最高速度で、通常の旅客機が1000km/h程度なのに対してコンコルドは2000km/hを超える速度を誇ります。 コンコルドは音よりも地球の自転速度よりも速く、パリ-ニューヨーク間のフライトであれば通常8時間半かかるところを3時間半で飛んでしまいす。
そんなコンコルドがなぜ営業停止になってしまったかと言えば、コスト面に多大な問題があったからです。 通常の5倍もの機体コストがかかりましたが、高速移動の安全上あまり大型にはできないため、座席が100席程度しか作れません。 そんなコンコルドの料金設定は、一般的な飛行機のファーストクラスよりも更に上の価格に設定にせざるを得ませんでした。
他にも特別に長い滑走路が必要なため小さい空港では運用できない、音速を突破する際に起きるソニックブームによる騒音被害などの問題もあり、主流にはなれずに細々と一部航路でのみ運行されていました。 そんな中で2000年に起きたコンコルド墜落事故により安全性を疑問視され、改修したものの2001年のアメリカ同時多発テロにより収益はますます悪化、2003年に営業停止となってしまいます。
コンコルドは本来はもっと大量に配備される予定でしたが、上記の問題によりわずか16機しか製造されませんでした。 そんな少数で開発費を賄える訳がなく、とんでもない赤字を出してコンコルドプロジェクトは散々な結果で終わります。
巨額の大赤字となったコンコルドでしたが、実は2003年までに撤退するタイミングがなかった訳ではありません。 当初から順風満帆だった訳でもなく早い段階で採算が取れないことは分かっており、常に「このまま開発を続けて就航させるよりも、何もかもここでスパッと止めた方が幾分マシ」という進退窮まった状態にありました。
ならばさっさとプロジェクトを終わらせるべきだったのですが、膨大な投資額から誰もプロジェクトを中止させることができず、誰もが傷口を広げるだけと分かっていても開発は止まりませんでした。 その結果、開発会社であるブリティッシュ・エアクラフト・コーポレーションとアエロスパシアルは大損害を出してしまったのです。
そうして超音速旅客機コンコルドは、後世に「コンコルド効果」という不名誉な教訓を残すことになりました。
コンコルド効果への対処
コンコルド効果は傍から見ると愚かなことに見えますが、実はそこら中に溢れています。 個人レベルの身の回りはもちろん、企業や国などにも至る所にありますよね。
「このまま続ければ上手くいくかもしれない」「もしかしたら何とかなるかもしれない」…。 そんな可能性にすがりながら、ジワジワと傷口を広げていくのです。
今までかけたコストのことを「サンクコスト」と言いますが、何事もサンクコストを考えると中々止める決心が付きません。 中止すると今まで投資してきたコストが、一転して無駄へと変わってしまうのですからね。
しかし無駄だと分かっていることを続けるのは正常とは言えません。 こういった状況に陥った場合、サンクコストのことを忘れて判断してみると良いようです。
あなたが株で大損して「損したから投資額を倍にして取り返そう!」と典型的なコンコルド効果に陥ったとします。 そんな時はサンクコストを切り落として「投資額を倍にする」だけを見て合理的かを判断しましょう。 まあ普通に考えれば非合理的なので、傷口を広げるような真似をせずに済みます。
「100時間もプレイしたから・ゲームを続ける」「3年間も交際したから・別れたくない」「100万も負けたから・賭け金を倍にする」いずれも前後が繋がっていません。 コンコルド効果に陥った時はサンクコストの事を忘れ、改めてこれから自分のやろうとしている事だけを考えて続けるべきかを見直してみましょう。
ただあなたが何かしらの事業を止めるべきだと冷静に認識していても、周囲の人がそれを許さないことは往々にしてあります。 だからこそこの錯誤は厄介なんですが、根気強く周囲を説得するしかないですかね…