プロ棋士が「角不成」によって勝利した伝説の対局がある

将棋は日本の代表的な頭脳スポーツであり、老若男女・上手下手を問わず人々に広く親しまれ遊ばれています。

将棋において駒が敵陣に入ると、強い駒に「成る」ことができます。 基本的に成った方が強くなり、特に歩・飛車・角については昇進先が上位互換の動きをするため大抵の場合は手なりで成ります。

しかしそこを敢えて不成を選んだことによって勝利した対局が存在します。 その理由は「打ち歩詰め回避」です。

打ち歩詰め回避不成

将棋には相手側の陣地三行に駒が移動した際、王と金を除く駒は昇進=「成る」ことができます。 基本的に成った方が強いですが、銀・桂馬・香車は成る前に出来たことが出来なくもなるので、この三種に限っては状況によって不成の選択をされることも多いです。 逆にそれ以外の駒は不成を選択するような場面はまずありません。

例えば角は斜め方向に限り好きに動ける駒ですが、角成りである竜馬となれば角の範囲に加えて上下左右にも一マス動けるようになります。 つまり竜馬は角の完全上位互換なので、敵陣に入ったら手なりで成る場合がほとんどです。

これだけ聞くと角不成はただのポカのようにも思えますが、そうではない場合も稀にあります。 それがプロの対局で稀に指されることがある「打ち歩詰め回避」のための不成です。

打ち歩詰めとは「持ち駒の歩で王手をかけ、かつ詰ませてはいけない」というルールです。 相手が詰まない状況なら持ち駒の歩で王手をかけても問題ありませんが、それが詰みになる状況では打つのは禁止されており、うっかり打つと反則負けになります。

この先に持ち駒の歩で王手をかけたい場面があるけど、ここで駒が成ると王の逃げ道が潰れて打ち歩詰めとなってしまう。 だから敢えて不成のまま王の逃げ道を残しておく、というのが打ち歩詰め回避不成の趣旨です。

打ち歩詰め回避不成で有名なのは、1983年の谷川浩司名人と大山康晴十五世名人の対局で出た角不成です。 対局の終盤、谷川名人は10手ほどで詰めになる所を読み切り、その途中で打ち歩詰めになってしまうことに気付き、角不成を選択したそうです。

詳細な手順が気になる方は、以下の動画を紹介しておきます。

このような打ち歩詰め回避の不成が用いられることは滅多になく、特に大駒の不成は珍しいです。 まずそのような局面になることがほとんどないし、なっても歩の代わりとなる持ち駒があれば必要ないからです。

だから素人が遊ぶ時には歩・飛車・角の不成なんて選択は頭から抜け落ちています。 私がそんな局面を迎えたとしても手成りで竜馬になって、後から「角成らずが正解とか分かる訳ないだろ!」とか思ってしまうでしょうね。

プロの対局においては時々登場する打ち歩詰め回避不成は、プロの読みの深さを実感させられる一手です。

コンピュータ将棋選手権での角不成

角不成と言えばプロ棋士がコンピュータと対局するコンピュータ将棋選手権において角不成が選択されたこともあります。 ただしこれは打ち歩詰め回避のためではなく、コンピュータの思考をおかしくさせるために用いられた手です。

2015年の将棋電王戦FINALの永瀬六段と将棋AIのSeleneによる対局にて、永瀬六段は角不成で王手をかけました。 これは解説員や視聴者が困惑する一手でしたが、これによりSeleneは停止して永瀬六段の勝利となりました。

当時、一部の将棋AIは非合理的な手である歩・飛車・角の不成に対応していませんでした。 その隙を知っていた永瀬六段が繰り出した奇手にして勝負手が角不成だった訳です。 ちなみに状況は永瀬六段が有利で、角成であっても勝敗は変わらなかったのではないかと言われています。

このエピソードを聞くとコンピュータならではの弱さのようなものを感じたかもしれません。 しかし将棋ソフトは修正してしまえば同じ手は通じませんし、既に将棋においてコンピュータは人間を凌駕したと言われています。 特に将棋ソフト最強の名高いponanzaのプロ棋士との対戦戦績は7戦全勝で、その中には名人も含まれています。

時代が進むごとにコンピュータが人間を凌駕する分野は増え続けています。 将棋もそのひとつとなりましたがそれが将棋の魅力を損なった訳ではなく、今も子どもから大人まで幅広く親しまれている素晴らしいゲームであり続けています。

ネット対戦でソフト指しを使うのは勘弁して欲しいですけどね。素人が勝てる訳ないんだよなあ…

合理的じゃないけど時々行われる角成らず

将棋をしていると、しばしば成るべき状況で不成を選ぶ人に遭遇します。 その意図は相手に聞いてみないことには分かりませんが、こうではないかと言われている理由をお話します。

操作ミスによる不成

これはどうしようもないですね。 特にスマホで操作していたり、ながらでやっている際に多いです。

これが致命傷となってそのまま負けたり、操作ミスの恥ずかしさにその場で投了することも珍しくありません。 まあ私のことですが。

どうせ取られる時の不成

例えば角換わり進行となった場合、敵陣に突っ込んだ角が取られない訳がありません。 そんな時に「どうせ取られるから成る意味がない」と不成が選択されることがあります。

マナー的には微妙な気もしますが、そうしたくなる気持ちは分かりますよね。

意表を突くため

将棋のようなゲームにおいては、たとえ非合理的な手であっても「それを選択した理由があるのではないか」と相手に思考を強いることができます。 大ゴマの不成は相手にとっては詰み局面での打ち歩詰め回避のためのものに思えるので、詰みがあるのか手順を確認しようとする可能性は高いです。

こういった思考は持ち時間を消費しますし、読み切れないけど怖いからと緩手を打ってくれる可能性もあります。 そういった点ではある意味で合理的な手となり得ることもあるのかもしれません。

煽り行為による不成

相手を煽る意図で不成が選択されることもある…というか、不成自体が煽り行為となっています。 たとえ操作ミスによるものでも煽り行為と受け取られることもあるので注意しましょう。

悪質なプレイヤーは勝勢では相手にチャンスを与えるような体で不成を選択し、敗勢では勝負を投げたような感じで不成を選択します。 これは相手をイラつかせる行為であり、悪質なマナー違反なので止めましょう。

何も将棋に限った話ではありませんが、お互いに気持ちよくゲームができるようマナーを守り、楽しいゲームにするよう心がけましょうね。

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